研究領域 | 光の螺旋性が拓くキラル物質科学の変革 |
研究課題/領域番号 |
23H04575
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
久保 敦 筑波大学, 数理物質系, 講師 (10500283)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 横スピン角運動量 / 表面プラズモン / 表面プラズモンポラリトン / スピンテクスチャ / トポロジカル構造 / ストラクチャードライト / スペース・タイム波束 / フェムト秒 |
研究実績の概要 |
1. Space-time表面プラズモンポラリトン波束(ST-SPP波束)のスピン角運動量:伝搬不変(propagation-invariant)型フェムト秒ST-SPP波束の空間的電場分布、スピン角運動量(SAM)テクスチャ、トポロジカルチャージ密度について解析的に明らかにした。ST-SPPのスペクトル領域は、金(Au)-大気界面表面プラズモンの分散関係を表すSPPライトコーンと、1枚のスペクトル平面とによる交差線とし、光源のスペクトル分布はパルス幅100 fs、中心波長800 nmのガウス型分布とした。ST-SPP波束は、X字型に交差する2本の平面状SPP波束の交点に出現する。この波束は、いわゆるオーミック損失により伝搬と共に強度減衰するが、形状は崩れることなく安定を保つ。波束内部ではSAMの面直成分が周期的に振動するテクスチャを呈する。また、波束の左右で符号が反転するトポロジカルチャージ密度を持つ。これらについても、SPPのコヒーレンス寿命を大きく超える時間に渡り安定的であることが明らかになった。 2.ナノスリット型結合器を用いたST-SPP励起:ST-SPPの生成には、スペクトル領域の設計値通りの振動数-運動量の関係を、フェムト秒パルスのスペクトル領域のすべての周波数成分に対し精密に当てはめなければならない。しかし、この手法は明らかではなかった。この問題が、金属表面に直線状で幅100nm程のナノスリットを形成し、励起光-SPP結合器とすることで解決できることを示した。 3.10フェムト秒レーザーを光源に用いた、超短パルス状の伝搬不変型ST-SPP波束の生成と時間分解2光子蛍光顕微鏡法による可視化に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. ST-SPP波束の電場分布やスピン角運動量など、主要な物理量を解析・評価する手法やアルゴリズムの整備が進んだ。例として、ST-SPP波束のスペクトル領域で定まる振動数と横運動量(横波数)を持つ周波数成分の重ね合わせによりST-SPP波束の電場ベクトルの面直成分を定め、さらに、ラプラス方程式とMaxwell方程式を用い電場の2次元面内成分、および、磁場ベクトルの各成分を決定する方法論を確立した。この様にして電場ベクトル、磁場ベクトルの各成分が求まることで、SAMテクスチャを評価することが可能になった。
2.伝搬不変型ST-SPPの生成と顕微可視化が実際に可能であることの実験的な証拠を得た。この研究上の進捗は、本研究課題の中核を構成するものである。2次元空間光変調素子(SLM)を用いた4f光学系からなる、space-time光波束(ST-WP)シンセサイザーが完成したことにより、時間幅10フェムト秒、中心波長800 nmの超短パルス光から精度よく所望のST-WPを生成し、ST-SPPの励起光源として使用することが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、伝搬不変型ST-SPP波束の詳細な時間分解可視化実験を行い、伝搬行程における波束の安定性に関する評価や、群速度、波束軌道など物理特性の精密な決定を行う。併せて、トポロジカル・プラズモニック・スピンスキルミオンなどの、トポロジカルなプラズモニック構造の励起と観察を行っていく。 また、本研究課題に関する研究成果発表のため参画した学術講演会において、当該分野の研究者との議論により、表面プラズモンのスピン角運動量による物質電子との相互作用の強度を増強するための方策について新規に共同研究を開始することになった。本研究課題、並びに、新規共同研究の両方において、ST-SPP波束の計測精度の向上が重要になる。このために、ST-SPP波束の励起光源であるフェムト秒レーザーの高安定化が必要になった。この状況を受け、経年劣化により動作不安定性が生じていたフェムト秒レーザー励起用の固体レーザーを更新することにした。令和5年度中に本科研費の前倒し利用申請が受理され、新規固体レーザーの導入計画を定めた。この固体レーザーは令和6年度中にフェムト秒レーザー励起部にインストールし、より高安定なST-SPP波束の生成・観察を実施していく予定である。
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