研究領域 | 光の螺旋性が拓くキラル物質科学の変革 |
研究課題/領域番号 |
23H04610
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
齋藤 滉一郎 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 研究員 (00828296)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 金属コロイド / 光化学 / 円偏光 / 光渦 / 表面プラズモン共鳴 |
研究実績の概要 |
円偏光および光渦の照射が金ナノコロイド、特に渦巻ラミネート構造の成長に与える影響について検討を行った。円偏光、光渦を照射した場合でそれぞれ渦巻ラミネート構造が成長する条件を見出すことに成功した。しかし、渦巻の左右の巻き方に明確な偏りはいずれも見られなかった。得られた粒子分散液について円偏光二色性(CD)スペクトルの測定も試みたが、明確な信号は得られなかった。光の角運動量がナノ粒子を回転させることは知られており、流体中ではナノ粒子が流動方向に応じて容易に回転することも確認している。しかしながら、光化学的な金の渦巻ラミネート構造の成長において、その巻き方に光の螺旋性はほとんど影響しないことが示唆される結果となった。 一方で、これらの実験の過程で、大きな形状異方性をもつ金ナノロッドを用いた粒子成長反応において、分散状態での円偏光によるキラル成長の可能性が示唆されるという重要な結果が得られつつある。渦巻ラミネート構造がβシクロデキストリンやポリビニルピロリドン(PVP)などの特定の保護剤を用いた際に選択的に成長しやすくなることに着想を得て、金ナノロッドを用いた粒子成長反応においても適切な保護剤を検討した。粒子分散液に対して左右の円偏光を照射して反応を進行させた結果、信号は小さいもののCDスペクトルにおいて左右円偏光の違いに応じた信号の正負の逆転が観測された。ただし、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した限りにおいては、左右円偏光を照射したサンプル間での形状の違いは見て取れなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的であった、光の螺旋性を利用した渦巻ラミネート構造の巻き方の左右の制御は十分な進展が見られなかったものの、その過程で別の形状の金ナノ粒子を用いたキラル成長の可能性を見出しつつある。金ナノ粒子が溶液に分散した状態で光化学的にキラル構造を作製する報告はほとんどなく、重要な進展と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、光の螺旋性を利用した金ナノ粒子のキラル成長を試みる。円偏光二色性の照射光波長依存性や、光渦を用いての光の角運動量依存性などを調べていく。キラリティーの起源がどこにあるのか、高分解能電子顕微鏡観察や電子線トモグラフィーなどを用いて詳細な検討を行う。
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