研究領域 | 行動変容を創発する脳ダイナミクスの解読と操作が拓く多元生物学 |
研究課題/領域番号 |
23H04660
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
松本 正幸 筑波大学, 医学医療系, 研究員 (50577864)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 潜在意識 / 意思決定 / 非ヒト霊長類 |
研究実績の概要 |
我々は外界の情報を知覚し、その情報を基に適切な行動を選択する。一方、ヒトを対象にした先行研究は、知覚に上らない潜在意識下にある情報が意思決定に影響することも報告している。ただ、侵襲的な実験手法が利用可能な実験動物を対象にした先行研究は見られず、潜在意識下にある情報がどのような神経メカニズムで意思決定に反映されるのかは不明である。本研究では、マカクザルを対象に、知覚することが難しい条件で提示された報酬情報をコードする神経細胞の探索を行う。 2023年度は、知覚することが難しい条件づけ刺激を提示する古典的条件づけを考案して、1頭のマカクザルに訓練した。この古典的条件づけでは、サルが見ているモニターに条件づけ刺激がごく短い時間提示される。この条件づけ刺激は、サルが得られる液体報酬(ジュース)の量を表している。このとき、視覚マスキングと呼ばれる手法を用いて条件づけ刺激を“知覚することが難しい”状態にする。その後サルに、条件づけ刺激が知覚できたかを答えさせる。そして、サルが知覚できなかったと答えた場合でも、意識に昇らない潜在意識下にある報酬情報をコードする神経細胞がどの脳領域にあるのかを探索する。これまでの訓練で、サルは自身の知覚を正確に答えられるようになった。2024年度はこのサルの複数の脳領域から神経活動を記録して、それぞれの領域の神経細胞が意識に昇らない報酬情報をコードしているのか解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、知覚することが難しい条件づけ刺激を提示する古典的条件づけのサルへの訓練が終了した。サルの知覚に対する応答を解析した結果、実験者の想定通り、視覚マスキングによって条件づけ刺激の知覚が阻害されることが確認された。また、lickingを解析すると、サルが条件づけ刺激を知覚していないときは、意識に昇らない報酬情報がlickingに影響しないことも確認できた。行動レベルでの解析によって、この古典的条件づけを用いることで意識に昇らない報酬情報をコードする神経細胞の探索が可能であることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
上述した知覚することが難しい条件づけ刺激を提示する古典的条件づけを行っているサルの複数の脳領域から神経活動を記録する。今回は報酬情報をコードする神経細胞がターゲットになるので、報酬情報をコードすることが知られている偏桃体と眼窩前頭皮質から神経活動を記録する。偏桃体は、潜在意識の影響を受けると言われる情動に関連した脳領域であり、意識に昇らない報酬情報のコードにも関連していると推測している。眼窩前頭皮質は、意識的な情報処理に関連すると言われる前頭前野の一部であり、偏桃体のよい比較対象だと考えている。まずはこれらの領域の神経細胞が意識に昇らない報酬情報をコードしているのか解析する。もし意識に昇らない報酬情報がコードされていなければ、別の脳領域を探索するか、古典的条件づけの見直しを進める。 また、古典的条件づけで用いた知覚することが難しい条件づけ刺激を利用して、サルに意思決定を行わせる課題を考案した。知覚できない条件で小報酬と大報酬に結びつく条件づけ刺激をサルに見せた後、どちらからの条件づけ刺激をサルが好むのかを解析する。サルが大報酬に結びついた条件づけ刺激を好めば、意識に昇らない報酬情報がサルの選好性に影響したことになる。2024年度中にはこの行動課題のサルへの訓練を完了したい。
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