公募研究
昨年度は、申請者らが確立した自発的に歩行運動を開始し感覚キューを手がかりとして報酬の情報を得る報酬獲得課題を学習中及び学習を完了したマウスにおいて、多次元の行動パラメータ(運動(歩行速度)、注意(瞳孔径)、報酬期待(リッキングのタ イミングと頻度)を測定解析した。学習の過程で、1)リッキング開始のタイミングが報酬獲得後→自発歩行開始後→聴覚キューの提示後と変化すること、2)歩行運動がキューの提示後報酬獲得に向けて、減速するように制御されるように変化することが明らかになった。また学習完了後、リッキングの開始と歩行の減速のタイミングに正の相関があることを見出した。 慢性疼痛の発現に深く関連していることが知られている前部帯状皮質を含む背内側前頭前野のニューロンの活動をGABA受容体作動薬のムシモールの局所投与により薬理学的に抑制すると、この課題の成功率が有意に低下し、行動パラメータが変化することを明らかにした。興味深いことに報酬期待を示すリッキングの開始と速度低下の相関関係が崩れたことから、報酬情報に基づいた運動制御にこの領域が重要な役割を担っていることが示唆された。また持続的な疼痛を 引き起こすパクリタキセルを投与したマウスにおいて、この課題成功率が低下し、課題遂行中の歩行速度や報酬期待を示すリッキングが低下す ることを見出した。これらの結果は、慢性疼痛が動機付け行動に重要な神経回路の機能障害に関与していることを示唆している。またこれと並行して、マウスの一次体性感覚野に光遺伝学的な操作を加えることで疼痛行動が誘発されることを見出した。これらの結果を国内外の学会において発表もしくは今年度発表予定である。
2: おおむね順調に進展している
報酬獲得行動課題で検証するための慢性疼痛の疾患モデル動物および行動課題とそのなかで測定する行動パラメータを確立し、行動変容の特徴を抽出することができた。さらにこの変容に関連した脳内における領域を薬理学的な検証によって明らかにすることができた。また疼痛情報処理に主な役割をになっているとされる一次体性感覚野に光遺伝学的な操作を加えることで疼痛行動が誘発されることを見出し、今後このモデルマウスで行動変容の際の神経活動記録を行う上での準備も整ったと言える。
疾患モデルマウスと対照群である健常マウスにおいて、上記でその役割を明らかにした脳領域から広範囲に神経活動を記録する。得られたデータをもとに、個々の領域における運動情報表現と領域間の機能的結合を統計学的・計算論的推定を用いて明らかにする。 特に前頭前野と辺縁系回路における情報表現と行動変容の関係を調べるため、疼痛モデルマウスと対照群の辺縁系回路にそれぞれ記録電極・プローブ を慢性的に埋め込み、行動課題の学習と遂行について、多数のニューロン活動の同時記録を行い、行動と神経活動を解析する。また、これらの領域間の結合の役割を明らかにするため、光遺伝学的手法および化学遺伝学的手法を用いて個々の領域内のニューロンと領域間を結合するニューロンの活動を人為的に操作してネットワークの機能を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
eNeuro
巻: 11 ページ: 0452-23
10.1523/ENEURO.0452-23.2024