動物の生存に重要な生得的行動の多くにとって、行動を起こす位置や方位が重要である。例えば、動き回る餌を捕獲するためには餌の方向へ動く必要があり、天敵が襲ってきた時はそれと反対方向ないしは安全なシェルターの方向へ素早く逃避する必要がある。しかし、これらの正確な定位行動の基盤となる脳動態は不明である。一方で、探索行動中の齧歯類の脳から場所細胞や頭方位細胞、グリッド細胞、速度細胞など空間認知に関わるとされる様々な神経細胞が同定されてきたが、これらの細胞の捕食や逃避などにおける定位行動との関連は不明である。我々は最近、逃避行動を仲介する脳部位であるマウス上丘に場所細胞や速度細胞を同定した。本研究ではこれらの空間細胞を含めた上丘細胞が探索行動から逃避行動へ切り替わる際にどのような活動変化を示すのかを超小型内視鏡によるカルシウムイメージング、ビデオ撮影とDeepLabCutによる運動や姿勢の定量的解析、機械学習による多次元データ解析を組み合わせて明らかにする研究を行った。その結果、一部の速度細胞には視覚依存性があることや、天敵を模した視覚刺激に応答してマウスがすくみ行動を示した際や自発的に歩行を停止した際に特異的に発火する停止細胞を発見した。本研究により探索行動から逃避行動へのモードシフトという柔軟性に富んだ行動変容の基盤となる脳動作原理の理解が進むことが期待される。
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