我々が環境に順応し生きていくための重要な脳機能のひとつとして、学習・記憶機能がある。その学習・記憶機能を探究するため。タネつかみ運動記憶学習過程において、消失あるいは安定化(増大化)するという全く正反対の運命をもつ2種類の棘突起が大脳皮質運動野で新たに生じることに着目し、その詳細な機構を検討した。 運動学習課題において、運動学習段階では、M2皮質からM1皮質へのシナプス結合が新たに形成され活動的となる。記憶保持段階では、視床からのシナプス結合がその活動を引き継いで安定化することが重要なプロセスであることを見出した。すなわち、視床からの信号入力が強化され安定すると、一旦成立していたM2皮質からの入力が役目を終えて消滅するということが、この運動学習の基本的な仕組みであると考えている。運動学習の記憶学習過程において、新しくできたシナプス結合すなわち棘突起が、次の段階で、消失 vs 安定化(増大化)という全く正反対の運命にあることは興味深い。しかも、シナプス前神経終末の種類によりその運命はすでに決っている。本研究において、その運命を決める要因をミクロのレベルから検討した。 本年度は、運動学習トレーニング各日(1-8日目)に、生体脳観察解析で棘突起の動態を記録した。トレーニング1-2日目に最も多くの新生棘突起が生み出されていたが、それらの大半のライフタイムが1日程度であることを確認した。2―3割程度の新生棘突起が観察期間の最終日の8日目に観察することができたが、それらはおそらく視床からの興奮性神経終末の入力を持つと考えられる。
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