研究領域 | 植物の挑戦的な繁殖適応戦略を駆動する両性花とその可塑性を支えるゲノム動態 |
研究課題/領域番号 |
23H04740
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
武内 秀憲 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 特任助教 (10710254)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 花粉管受精 / 被子植物 / 受容体 / キナーゼ / ゲノム重複 |
研究実績の概要 |
被子植物は、オスの花粉管細胞を先端成長させることで、雌しべの奥深くにある卵細胞へと精細胞を直接送り届ける「花粉管受精」の戦略を進化させた。この生殖の仕組みが成り立つためには、花粉管の「先端成長の促進(伸長/誘引)」と「堅さの調節(破裂制御)」の相反する制御が、バランスを破綻させることなく調整され続けることが必要である。本研究では、これら二つの制御に関わるものとして新規発見したPAONキナーゼファミリーに着目して、花粉管受精システムの鍵となる複数の受容体シグナリングのバランス調節機構と進化動態の理解を目指した。 本年度は、まずPAONsの多重変異体の解析を進め、シロイヌナズナでは11あるPAONsのうち5つのPAONsが、役割分担またはオーバーラップしながら伸長/誘引と破裂のそれぞれを制御していることが示唆された。次に、伸長/誘引および破裂制御のそれぞれに関わる受容体シグナリングとの関連を調べるため、タンパク質間相互作用をタバコのBiFC(二分子蛍光補完)法により調査したが、明確な相互作用を示唆する結果は得られなかった。また、蛍光タンパク質を融合させた機能的なPAON1およびPAON2の局在観察により、これらPAONは花粉管の先端部において、細胞膜タンパク質が細胞内へとリサイクリングされる領域に比較的強い局在を示した。これらの解析結果と他の予備実験の結果より、PAONsは受容体シグナリング構成分子との直接的な相互作用というよりも、これらの因子の局在制御に関わる別の因子を調節している可能性が示唆された。 PAONsを含む花粉管特異的な因子の発現が連動的に制御される仕組みを明らかにするため、エピゲノム動態に注目した解析に着手した。DNAメチル化やH3K9me2のマークの動態が発現制御の基盤になっている可能性が報告されていたため、これらマークを調節する因子の変異体の作出を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PAONsの機能分担や局在の把握を進めるため、PAON遺伝子を組み合わせで破壊した変異体への蛍光タンパク質遺伝子を融合させた各PAON遺伝子の導入など、次年度の解析に必要なリソースの整備を計画通り進めることができた。一部PAON1に関しては局在解析に着手し、花粉管の先端部ではなくsubapicalや側方部の細胞膜に動的に集積している様子を観察した。また、PAONsと花粉管の挙動を制御する受容体シグナリングの構成分子との相互作用解析(BiFC解析)を行ったが、相互作用を示唆するシグナルは検出されなかった。これらの結果から、PAONタンパク質は花粉管の挙動を制御する受容体シグナリング構成因子を直接制御しているというよりも、それらの活性や局在を調節する他の因子を制御している可能性が示唆された。情報科学的なエピゲノム解析に関しては予備的な解析にとどまったが、花粉管特異的な遺伝子群の発現制御に関わると予想されたDNAメチル化変異体の作出が計画通り進んだため、表現型解析による検証を次年度滞りなく進めることができる。
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今後の研究の推進方策 |
蛍光タンパク質を融合させた各PAONの局在、paon変異体背景における各受容体シグナリング構成分子の局在およびその動態をライブイメージング解析する。PAON1に着目して、ドメインを欠損させた変異型PAON1を変異体に導入することで、花粉管の挙動のそれぞれの制御に各ドメインが果たす役割を調べる。また、花粉管制御リガンド(誘引ペプチドLURE1、破裂の誘導または抑制ペプチドRALFsなど)を添加した際の花粉管の応答性を解析することで、paon変異体の表現型から見出された伸長・誘引と破裂のバランス調節機構の実態と、関与する分子ダイナミクスを明らかにする。シロイヌナズナのエピゲノム解析データを用いて、花粉管特異的な因子群に注目してデータの再解析を進める。これに加えて、基部被子植物スイレンの花粉サンプルを集めてエピゲノム解析を実施し、花粉管特異的な因子群の発現制御機構の普遍性と進化を調べ、花粉管受精システムの創出に関わるゲノム動態を解析する。
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