研究領域 | 生体防御における自己認識の「功」と「罪」 |
研究課題/領域番号 |
23H04770
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新田 剛 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 准教授 (30373343)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 胸腺 / T細胞 / TCR / 髄質上皮細胞 / 自己抗原 |
研究実績の概要 |
獲得免疫系が「自己と非自己」を識別する能力は、胸腺におけるT細胞の分化と選択を通して形づくられる。胸腺の髄質上皮細胞は多様な自己抗原を発現することで、自己反応性T細胞の排除に重要な役割を果たす。本研究では、マウスをモデル動物として、胸腺内に発現・提示される自己抗原とTCRとの交叉反応によりT細胞のレパトアが適度に調節されるという独自の仮説を検証することを目的とする。髄質上皮細胞を制御するRANKL-RANK-OPG系の変異マウスを用いてTCRレパトアの変動を解析し、TCRクロノタイプと自己抗原との対応を調べる。また、この機構の中枢を担うOPG発現細胞を同定し、その分化機構と生理的意義を明らかにする。遺伝子発現やペプチド配列、TCRレパトアといった大規模データ解析と、遺伝子改変マウスを軸としたウェット実験のデータを統合し、「自己と非自己の境界」を設定する免疫学的原理の解明をめざす。 これまでに、髄質上皮細胞を過剰に生成するOPG-cKOマウスにおいて外来抗原反応性T細胞が有意に減少することが明らかになった。現在、交叉反応を引き起こす自己抗原の同定を進めている。また、胸腺内でOPGを産生する髄質上皮細胞サブセットを同定した。その細胞サブセットを特異的に消去するマウスの作製にも成功し、表現型の解析を進めている。全体的におおむね順調に進展しており、本研究課題の軸となる仮説が正しいことが検証されつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
① mTECによる「自己・非自己」設定の実体解明 髄質上皮細胞(mTEC)を過剰に生成するOPG-cKOマウスを対象として、胸腺におけるT細胞のTCRシーケンス解析を行った。OPG-cKOマウスでは、CD4 T細胞、CD8 T細胞ともに、WTマウスで多く検出される TCRクロノタイプが減少し、TCRレパトアの多様性が有意に低下することが明らかになった。フローサイトメーター解析により、OPG-cKOマウスでは、自己抗原であるMOG反応性T細胞が減少することがわかった。さらに、外来抗原であるOVAやInfluenza NP反応性T細胞も顕著に減少していた。 ② OPGを発現するmTECサブセットの同定 OPG+を発現するmTECを単離するため、OPG-CreERノックインマウスをloxP-pA-loxP-EGFPレポーターマウスと交配し、Tamoxifen投与により誘導的にOPG+ mTECを標識した。OPG+ mTECをソーティングしてqRT-PCRで解析し、当該細胞集団はGp2を高発現するMicrofold mTECであることが明らかとなった。さらに、Gp2遺伝子の下流にloxP-pA-loxP-DTAを挿入したKIマウスを作製し、FoxN1-Creマウスと交配することによって、OPG+ Microfold mTECを特異的に消し去るcell ablationマウスを樹立した。このマウスにおける胸腺内OPG産生量およびmTECの表現型を現在解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
① mTECによる「自己・非自己」設定の実体解明:mTECを過剰に生成するOPG-cKOマウスにおいては、胸腺内に過剰に発現される自己抗原との交叉反応によって外来抗原反応性T細胞が負の選択によって排除されていると考えられる。その原因となる自己抗原を同定し、TCRの交叉反応を証明する。マウスのタンパク質データベースからMHC結合性ペプチドを抽出し、外来抗原であるOVAペプチドとTCR相互作用部位のアミノ酸が保存されたペプチドを選抜する。候補ペプチドを合成してマウスに投与し、OVAペプチド反応性T細胞の増殖・活性化をpMHCテトラマーを用いて検出する。研究展開に応じて、他の外来抗原も対象として自己ペプチドを同定し交叉反応性を検証する。また、外来抗原や自己抗原反応性TCR-TgマウスをOPG-cKOマウスやRANK-cKOマウスと交配し、負の選択への影響を調べる。 ② OPGを発現するmTECサブセットの同定:OPG+ Microfold mTECを特異的に消し去るcell ablationマウスを用いて、胸腺内OPG産生量、mTECの数と遺伝子発現、T細胞の分化とTCRレパトアへの影響を解析する。 総括:研究成果をまとめ、RANKL-RANK-OPG系によって胸腺内に発現・提示される自己抗原の量が変動し、TCRとの交叉反応を介してT細胞の抗原認識能を変化させるとの仮説を検証してゆく。
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