研究実績の概要 |
T細胞は発現する多様なT細胞受容体(T cell receptor; TCR)レパートリーによって様々な病原菌を排除する。近年、TCRによる自己リガンド認識は、その恒常性や生体防御応答をも調整していることが明らかとなりつつある。申請者はこの“自己指向性”によって発現量が変動するCD5とCD6が、TCRシグナルを制御する分子メカニズムを明らかにしてきた。これらの知見を基に、本研究ではTCRの“自己指向性”がもたらす有益な効果を分子レベルで理解することを目標とする。当該年度では、1)感染応答時に増殖するT細胞サブセット解析とTCRレパトア解析、2)T細胞の自己親和性を測定するための実験系の樹立を試みた。 1)では、pMHC classII tetramerを用いた抗原特異的なT細胞の分離と、scRNAseq法を用いた遺伝子発現解析、TCRレパトア解析を行った。遺伝子発現に基づいてT細胞のサブセットを分類し、個々の細胞が持つTCRを紐続けることで、サブセット毎のTCRレパトアを同定した。その結果、一部のTCRを持つT細胞は特定のサブセットへの分化に偏りやすい性質を持つものが存在することを見出した。 2)では、Retrogenicマウスと呼ばれる実験手法(Holst et al, Nat Protoc, 2006)を用いて、TCRの自己認識強度を測定する実験系として利用できるかどうかを検討した。TCRトランスジェニックマウスなどではTCRの自己認識強度によってCD5の発現量が変動することが報告されている(Mandl et al., Immunity, 2013)。そこで、1)で同定したTCRの中で特徴的なものを選択し、retorgenic miceを作製したのち、それぞれのTCRを発現するT細胞のCD5の発現量を検討した。その結果、個々のTCRを発現させたretrogenic mice由来CD4+ T細胞は異なるCD5の発現量を示した。これらの結果より、Retrogenic miceの実験系はT細胞の自己親和性を測定する手法として使用できることを確認した。
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