研究領域 | マクロ沿岸海洋学:陸域から外洋におよぶ物質動態の統合的シミュレーション |
研究課題/領域番号 |
23H04824
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研究機関 | 一般財団法人電力中央研究所 |
研究代表者 |
三角 和弘 一般財団法人電力中央研究所, サステナブルシステム研究本部, 上席研究員 (10462889)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 鉄 / 栄養塩 / 海洋モデル / 海洋物質循環 / 海洋生態系 / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
日本周辺海域における溶存鉄の起源と輸送過程の解明は、海洋生態系の理解と気候変動予測の高度化に不可欠です。本研究では、水平解像度1/12度の高解像度モデルに、異なる起源(風成塵や堆積物)や地域で供給された鉄を識別して追跡する機能を組み込み、シミュレーションを実施しました。このモデルの特徴は、鉄の供給源を詳細に区別し、それぞれの輸送過程を独立して追跡できる点にあります。この機能により、各海域の植物プランクトンが利用する鉄の起源とその相対的な重要性を定量的に評価することが可能になりました。 風成塵や沿岸の陸棚堆積物から供給された鉄の輸送過程を調べた結果、亜熱帯、黒潮親潮混合水域、亜寒帯の植物プランクトンが利用している鉄の起源には地域差があることが明らかになりました。亜熱帯では大気経由の鉄が支配的であるのに対し、混合水域では日本の沿岸の陸棚堆積物起源の鉄が重要な役割を果たしています。さらに、亜寒帯域ではオホーツク海やベーリング海の陸棚堆積物起源の鉄も無視できない寄与を示しました。これらの結果は、海域ごとに異なる鉄供給源の重要性を定量的に示したものであり、日本周辺海域における生物地球化学的過程の理解に貢献すると考えられます。 また、鉄が外洋に輸送された際に外洋の鉄としてタグを与えて識別する機能を実装しました。この機能により、日本周辺の沿岸から500 kmまでの範囲の外洋との移行域において沿岸を起源に持つ鉄と外洋を起源に持つ鉄の相対的な寄与を定量化することが可能になりました。 今後は、観測データとの比較によりモデルの性能を検証しつつ、沿岸と外洋の寄与の大きさの違いの地域差について明らかにしていきます。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
鉄が外洋に輸送された際に外洋の鉄としてタグを与えて識別する機能を実装しましたが、複数の外洋海域を対象として同時にタグを与える計算を行うと計算が発散するという問題が発生し、現状で解決できていません。単一の外洋海域の設定では今のところ問題は見られていないため、その設定で計算を継続することを計画しています。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに開発したモデルを用い、10年程度の長期のシミュレーションを実施し、年々変動も含めて沿岸から外洋への移行域における沿岸と外洋の寄与をマッピングを行います。
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