研究領域 | 法と人間科学 |
研究課題/領域番号 |
24101503
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
唐沢 かおり 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (50249348)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 心の推論 / 被害者支援 / 裁判員裁判 / ステレオタイプ |
研究実績の概要 |
(1)被害者の心の理解に関する一般的理解の解明:被害者の心の状態に対する一般の人々のステレオタイプ的認知の詳細を明らかにするための調査を実施した。全国に居住する20歳から70歳までの男女を対象に、Web調査を実施し、犯罪被害のタイプごとの被害者への印象について、100名から回答を得た。その結果、「強盗目的」および「知人」により殺害された被害者に対しては、性格や対人行動上の欠点を指摘する記述が相対的に多くみられ、「裕福だが情は薄い」「社会的地位はあるが自分中心的」など、ポジティブ・ネガティブ要素の混在する相補的なイメージを付与される傾向が確認された。
(2)裁判員裁判場面での被害者の感情表出に対する評価と判断との関係:被害者やその家族が被害者参加制度のもと、裁判での意見陳述で表出する発言が、どのように裁判員の判断に影響するかを検討するための実験を実施した。その結果、被害者遺族の発言により心を動かされたと回答した参加者ほど、より長い量刑年数を選ぶこと、また、被害者参加制度に否定的な参加者は、遺族の発言による自己影響を否定し、その結果として、より短い量刑年数を選択するという過程が示された。
(3)被害者自身の心の推論に関するメタ認知調査:被害者が周囲からの支援をどのように受け止め、自身が支援者や周囲の人からどのように見られていると思っているか (メタ推論)、「支援者」に対してどのような印象を抱いているかなどについて、被害者に対するインタビューデータを収集し、分析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
被害者ステレオタイプや裁判場面での判断に関する研究については、Web調査や実験が順調に進行し、すでに、論文執筆を行っているものもある。また、現在、被害者ステレオタイプに関する本調査実施のための質問紙策定も進んでいる。 被害者インタビューについては、現在、被害者の方々の協力を得て、インタビューを実施中である。インタビューは、現在も続行されており、貴重なデータが一定数集まることが期待される。 以上、被害者が望む支援の在り方の構築に資する知見を生み出すという、本研究の最終的な目的に向けて、議論の基盤となるデータ収集が、順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
被害者ステレオタイプに関する研究については、学生や一般成人を対象にした、ステレオタイプに関する質問紙調査をさらに進め、より精緻な知見にまとめることを目指している。 また、被害者ステレオタイプを低減し、より実情に即した心の推論を可能にする条件を特定するため、被害者の視点取得を促進する操作が、被害後ステレオタイプにもたらす効果を検証するための実験を予定している。 被害者自身の心の推論のメタ認知については、さらにインタビューデータを重ね、その内容を詳細に分析することに着手する予定である。また、被害者支援の有効性検討のため、被害者とその周辺の人々(友人など)を対象とした調査を行い、被害者支援の実態とその意義を検討する予定である。
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