本研究は、1) 一般の人々を対象に、犯罪被害者(以下「遺族」とする)に対する心の推論の特性、および、心の推論が遺族への態度に及ぼす影響、さらに、遺族が法廷で表出する感情に対する、裁判員としての法的判断プロセスを明らかにすること、また2) 遺族自身を対象に、他者からの心の推論に関する推論(メタ推論)、および、メタ推論が対人態度に及ぼす影響を検証した。 遺族の心の推論については、調査 (N=100)研究の結果、「悲嘆」より「怒り」が多く推論されており、人々は「加害者に強い怒りを抱く」遺族像を保持していることが示された。また、シナリオ実験より(N=250)、「人間は他者の過ちに寛容であるべき」という規範的な信念の強い第三者は、このステレオタイプに合致する遺族に対し、少ない支援意図を示していた。同様のプロセスは、法廷で感情表出する遺族への認知でも確認され、第三者の規範的な信念が、(遺族の望む方向とは逆に) 軽い量刑判断をもたらすことが明らかになった (N=100)。 遺族を対象とした半構造化面接 (N=20) の逐語分析からは、遺族が実際、第三者による「賠償金に関する誤解」「受傷の過小評価」を体験しており、「社会には遺族への偏見がある」というメタ認知と対人不信、さらにはコミュニティ上の孤立や行動制限につながっていることが示唆された。また、遺族自身も第三者同様、遺族という社会的カテゴリーに対し、「怒ってばかり」という否定的なイメージを有していた。しかし、他の遺族によるこまやかで実際的な支援を受けることで、そのようなイメージが払しょくされていく様子もまた確認された。遺族は全般的に、被害経験を境目として対人関係の質的・量的な変化を実感していた。
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