研究領域 | 法と人間科学 |
研究課題/領域番号 |
24101504
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石崎 千景 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 特任講師 (00435968)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 裁判員 / 評議 / 発話 |
研究実績の概要 |
公判から得られる情報は膨大であり、裁判員は必ずしも全ての情報を焦点化する(関心を持ち留意する)わけではないと考えられる。焦点化される情報の範囲が狭い場合、他の情報との関係性が吟味されないままに特定の情報が過度に重みづけられることや、ある情報が評議で取り上げられても十分吟味されないといった懸念が想定される。 本年度は模擬裁判実験を行い、回顧的な自己意識に関するメタ認知研究の方法論を援用し、公判を「振り返る」ことによって、焦点化される情報の範囲が拡張されるか検討を行った。その際、(1)質問紙による調査と、(2)評議の発話分析を行うことで、裁判員の意識レベルと行動レベルの両面からこの問題を検討することを目的とした。 模擬裁判の様子を冊子で参加者に提示した後で、振り返り条件の参加者には、質問紙1に回答することで公判の「振り返り」を行った。統制条件の参加者には、事件とは関係のない挿入課題を行った。その後、参加者は裁判員として、5人または6人のグループで、被告人が有罪か無罪かの話し合い(評議)を行った。評議終了後、参加者がどのような情報を焦点化していたか調べる目的で、「各情報をどの程度気に留めながら評議に参加していたか」を尋ねる質問紙2に回答を求めた。 質問紙2で得られた評定値について、実験条件(統制条件、振り返り条件)×質問項目(30項目)の2要因混合計画法による分散分析を行った。その結果、質問項目の要因に有意な主効果が見られた(p .001)。このことは、各参加者が必ずしもすべての情報を一様に高い水準で焦点化していたわけではないことを示唆している。一方、実験条件の要因の主効果に有意差はみられなかった。また、実験条件と質問項目の要因との交互作用は有意傾向であった(p .10)。意識レベルの観点からは、振り返りを行うことで、焦点化される情報の範囲に変化は見られない可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
評議で得られた発話データの分析が遅れているため、上記の通り判断した。予備実験も含め、模擬裁判実験を行う上で同時間帯に参加可能な実験参加者の確保に時間を要したことで、スケジュールに遅れが生じ、その結果として評議内容の反訳作業に遅れが生じている。今後は、より広範に実験参加者を募ることや、模擬裁判実験の実施時期を見直すことで、この問題を解消したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、評議における発話内容の反訳作業をすみやかに完了し、「振り返り」が裁判員の発話に及ぼす影響について、抽出語の幅の広がりや、特徴語の傾向の変化といった観点から分析を行う。これにより、振り返りが裁判員による情報の焦点化に及ぼす影響について行動レベルでの検討を行う予定である。その結果得られた知見も踏まえ、実験の枠組みを精緻化した上で、次年度の研究計画の遂行にあたる。
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