研究実績の概要 |
本年度は,渦鞭毛藻Amphidinium sp.の培養藻体から単離・構造決定されたイリオモテオリド-2aのC6-C18ビステトラヒドロフラン部分構造及びC19-C28側鎖構造の立体選択的でスケーラブルな合成法の確立を行った。 C9位の不斉中心の制御には,野上らが開発した不斉アリルトランスファー反応を用いることで,C6-C11部分構造のスケールアップを容易にした。一方,C12-C18部分構造は市販のベンジル(S)-グリシジルエーテルを原料とし,既報の手法に従い合成した。得られた両部分構造をオレフィン交差メタセシス反応により連結した後,C11位の不斉中心をCBS還元により,C12, C13位不斉中心はSharpless不斉エポキシ化反応によりを制御した。続いて2つのテトラヒドロフラン環の立体特異的な構築を行った。C9位ヒドロキシ基の脱保護と続く弱酸処理により,C9-C12テトラヒドロフランはヒドロキシエポキシドの分子内環化反応により構築した。生じたC13位ヒドロキシ基をメシル化した後,塩基性条件下でC16位ベンゾイルオキシ基の脱保護と分子内環化を一挙に行い,C13-C16テトラヒドロフラン環を構築した。 一方,C19-C28側鎖構造は(R)-リンゴ酸を出発原料とし,Seebachアルキル化,野崎ー檜山ー岸反応,Brown不斉アリル化反応を鍵段階とする直裁的な合成法により,数百ミリグラムオーダーで合成した。 以上,イリオモテオリド-2aの構造的特徴であるC6-C18ビステトラヒドロフラン部分構造及びC19-C28側鎖構造に関する,高立体選択的かつスケーラブルな合成法の開発に成功した。当該部分構造のスケーラブルな合成法は,天然物そのものに限らず,類縁体や標識化合物の合成に不可欠で,イリオモテオリド-2aの全合成とケミカルバイオロジー研究を大きく前進させる成果と考えられる。
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