公募研究
生体分子を化学修飾する分子プロ-ブは生命現象の制御や解明に不可欠であり、その重要性が認識されている。既に蛋白質を化学修飾する低分子プロ-ブは種々検討されており、細胞内において選択的に標的蛋白をラベル化する分子プロ-ブも開発されている。しかし細胞内でDNAやRNAを配列選択的に化学修飾する方法論は現在のところほとんど報告されていない。近年、RNA研究の進展に伴い様々な機能性RNAの存在が明らかにされており、細胞内でこれらのRNAを選択的に化学修飾できる分子プロ-ブは、その機能解明のツールとして極めて有効であると考えられる。本研究では塩基欠失部位を持つオリゴヌクレオチドと反応性核酸を含む低分子プロ-ブを用いた、DNAあるいはRNAの1塩基に対し、ピンポイントの選択性で化学修飾する方法論の開発を目指している。本年度は、2本鎖DNAの塩基欠失部位での選択的な反応性を期待し、独自に設計した水素結合形成により活性化される反応性塩基とDNAに対して結合親和性を持つと予想されるカチオン性部分としてスペルミンを持つ分子の合成を検討した。しかし、スペルミンと反応性塩基が分子内で反応し、その反応性が失われることがわかった。そこで次に求核性を持たないスペーサー部分として、DNAのAATT配列のマイナーグルーブに結合することが知られているペンタペプチドを結合させたプローブの合成を検討した。その結果、目的の反応性プローブの合成に成功した。えられたプローブを用いて、塩基欠失部位を持つ2本鎖DNAとの反応を検討したところ、酸性条件下では塩基欠損部位の向かいのシトシンと、さらに中性条件下ではチミンに対して選択的に反応することがわかった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では独自に開発した種々の架橋反応性核酸塩基にアミドでカチオン性のスペルミンを結合させ、さらにその末端にアクリジンを導入した分子プロ-ブを合成しその反応性を検討する予定であった。しかし、目的化合物であるカチオン性のスペルミンを有する低分子プローブは得られないことがわかった。そこでスペルミンの代わりにプロリンーアルギニンーグリシンーアルギニンープロリンのペンタペプチドを導入したプローブの合成を検討したところ、目的化合物を得ることに成功した。本プローブ合成は固相合成により容易に合成することが可能であり、ランダムスクリーニングによる高い反応性を持つプローブの検索法にも展開できると期待される。このように当初の計画とは少し異なるが、プローブの標的を拡張させること、さらにはより活性が高い低分子プローブの検索を容易に可能にすることから、当初の計画より広範囲な応用が可能になると期待される。
今後は下記の点について検討する。① 昨年度は架橋反応性核酸塩基として2-アミノー6-ビニルプリンを用いた。近年度はより反応性の向上をめざし、ピリミジン誘導体、さらにはより高い反応性を持つプリン誘導体の合成を検討する。さらに7位にアルキンを導入した7ーアルキン-デアザ2-アミノー6-ビニルプリンを合成し、特定のDNAに対して反応した後、選択的なラベル化を可能にするプローブの展開も検討する。② 2本鎖DNAに対して高い親和性を持つペプチド配列をランダムスクリーニングにより検討する。具体的には架橋反応性塩基を導入したペプチドライブラリーを構築し、塩基欠損部位を持つ2本鎖DNAと反応させることで、2本鎖DNAに対して高い結合親和性を持つペプチドを検索する。さらにこの方法論をRNAの高次構造に結合するプローブの検索にも適用する。③ ①の塩基と②で得られたペプチドを組み合わせることで、疎水空間における高い反応性を持つ低分子プローブを検索する。さらに①~③について検討することで最終的には細胞内におけるDNAあるいはRNAを選択的に修飾できるプローブの開発を目指す。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (32件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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