研究領域 | 天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御 |
研究課題/領域番号 |
24102518
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田中 克典 独立行政法人理化学研究所, 田中生体機能合成化学研究室, 准主任研究員 (00403098)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 共役イミン / [4+4]環化反応 / 1,5-ジアザビシクロオクタン / 2,6,9-トリアザビシクロ[3.3.1]ノナン / ポリアミン / アクロレイン / 酸化ストレス / 疾患 |
研究実績の概要 |
平成24年度では、共役イミンによる新しい反応性を探索する過程において、分子内の水酸基が[4+4]環化反応を著しく活性化させることを見出した。一般的に、共役アルデヒドに対してフェニルグリシノールなどの1,2-エタノールアミン誘導体を作用させると、対応する共役イミンやアミノアセタールが得られると信じられて来た。しかし報告者らは、この場合、中間に生じる共役イミンが速やかに[4+4]環化反応を起こし、1,5-ジアザビシクロオクタン誘導体を与えることを明らかにした。計算化学を用いてこの原因を詳細に調べたところ、アミンの隣接位にある水酸基が、新規なOH-π相互作用を起こし、反応促進に大きく関わっていることを見出した。反応は様々な置換基を持つ共役アルデヒドに対して一般的であり、多置換を持つジアザビシクロオクタン誘導体のライブラリー合成法として開拓した。 さらにポリアミンを代表とする1,3-ジアミン誘導体とアクロレインから生成する共役イミンの場合にも、[4+4]反応が良好に進行することを発見した。興味深いことに、ジアミンの種類や反応条件によって、ジアザビシクロオクタンやさらに1分子のポリアミンで架橋された2,6,9-トリアザビシクロ[3.3.1]ノナンが高収率で得られる。アクロレインがアミン塩基の存在下で速やかに重合反応を起こすことはよく知られているが、ポリアミンとアクロレインの付加体としてジアザビシクロオクタンの生成を示したのは初めての例あり、天然生理活性分子から得られる共役イミンの見過ごされていた反応である。 一方、酸化ストレスを要因とする疾患の原因物質として、これまでポリアミンから生産されるアクロレインが候補として議論されてきた。すなわち、報告者が見出したポリアミンとアクロレインとの[4+4]反応は、この新奇反応が疾患の原因や様々な生体内での機能制御を担っている可能性を示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度では、報告者が見出した共役イミンの新規反応である、[4+4]環化反応に焦点を当て、その反応活性化効果を有機合成化学的に解明した。さらに誘導体の反応性について詳細に検討したところ、天然物であるポリアミンと、それから代謝されて生成するアクロレインとの間でもこの反応が進行することを発見した。当初の予定では、他の共役イミンの反応性見出し、その誘導体の合成と生物活性などを調べる予定であったが、予期せず[4+4]環化反応が酸化ストレスや生体内での機能発現において重要な役割を示す可能性を見出した。このようにこれまでに見過ごされていた[4+4]反応が生体内で鍵となっている可能性があり、当初の計画と予想を上回る成果を得ることができたと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
[4+4]環化反応による誘導体を合成するとともに、細胞内での生成を様々な分析手法により検証する。さらに、これら誘導体の様々な活性評価を基にして、本反応が酸化ストレスの原因の1つであることを証明するとともに、生体内での他の機能発現と密接に関わっていることを実証する。
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備考 |
北谷方嵩:“ポスター発表部門優秀賞”、若手ペプチド夏の勉強会、2012年8月7日、岩田隆幸:“一般講演部門優秀賞”、若手ペプチド夏の勉強会、2012年8月7日、田中克典:“平成24年度審査員表彰”、科学研究費助成事業(科研費)2012年12月10日
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