研究概要 |
本年度は、昨年度までに開発・高度化を進めたエピトープマッピング法の高分子量疾患関連タンパク質-リガンド相互作用系への適用を進めた。当初研究対象として考えていた中枢神経系抑制性シナプス受容体であるGABA受容体細胞ドメインαサブユニットについては、その発現・精製に成功し、ベンゾジアゼピン系化合物の結合活性がSTD法により確認されたが、試料に顕著な凝集性が見られたため、新たに好熱古細菌由来のプロテアソームαサブユニット七量体(α7)発現系を構築し、α7を標的としたリガンドエピトープ解析を実施することとした。リガンドとしては、従来のプロテアソーム阻害剤と異なるメカニズムで作用することが近年明らかとなったが、そのリガンドエピトープは不明であるクロロキンを選択した。高分子量標的タンパク質であるα7において精度良くリガンドエピトープマッピング実験を行うために、各種条件(タンパク質濃度、タンパク質-リガンド濃度比、等)の検討を進めた結果、α7に結合したクロロキンのリガンドエピトープ(芳香環H1~H3, メチルH7)を同定することができた。 さらに昨年度考案した部位特異的なエピトープマッピング実験の本相互作用系への適用を試みた。重水素化したα7を調製しエピトープマッピング実験を行った場合には、タンパク質選択的照射による縦緩和速度差はほとんど現れなかったのに対し、イソロイシン選択的にプロトン化したα7を用いた解析では、クロロキンの芳香族プロトン(H1, H3)に大きな縦緩和速度差が観測された。これにより、α7のイソロイシン残基近傍にクロロキン芳香環の一部が存在していることが示唆された。この情報はα7のクロロキン結合部位の同定およびリガンド配向様式の決定につながる有用なものであるが、精度良い結合部位同定を行うためには、他の数種類のアミノ酸選択的プロトン標識体を調製しエピトープマッピング実験を行っていく必要がある。
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