研究領域 | 天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御 |
研究課題/領域番号 |
24102526
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 浩之 東京工業大学, 資源化学研究所, 教授 (30274434)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ケミカルバイオロジー / 有機化学 / ホウ素 / 癌 / 低酸素 |
研究概要 |
腫瘍組織内では、酸素、栄養が不足していることから、血管網形成のためにHIF-1α による血管新生因子の産生が強く亢進されている。そこで、低酸素下で誘導されるHIF-1α をがん分子標的としこれを阻害することで、腫瘍血管新生を阻害しがんを兵糧攻めすることができると考えられる。 そこで本研究では、がんの低酸応答に関わる新しいシグナル伝達系を探索し、がん治療分子標的薬剤の新しい分子標的を創薬研究分野に提供することを目的とする。そのために、天然物骨格を基軸にホウ素クラスターの立体電子的効果を利用したハイブリッド化合物を分子設計し、プローブ化することで、標的タンパクの分子ツールを作成した。 ①Manassantin-ホウ素クラスターハイブリッド分子の設計と合成:Manassantin は、低酸素におけるHIF-1α の安定化を100nM の低濃度で阻害することが報告されているが、詳細な作用機序は明らかになっていない合成の鍵は、Manassantin の中心骨格であるテトラヒドロフラン環の不斉合成であり、多段階合成を必要とする。そこで、このテトラヒドロフラン環により立体的にrigid でbulkyなカルラン骨格を導入したManassantin-ホウ素クラスターハイブリッド分子を合成し、構造活性相関を検討した。 ②Combretastatin-ホウ素クラスターハイブリッド分子の設計と合成:Combretastatin類は、シススチルベン骨格を有する天然物で、チューブリンバインダーとして働き抗腫瘍活性を発揮することが知られている。最近、combretastatinのHIF転写活性阻害が明らかにされている。そこで、シスの立体を持つ炭素―炭素二重結合部位にホウ素クラスターを導入したハイブリッド分子を合成し、その細胞内局在を明らかにするとともに、作用機序解明を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度において、Manassantin-ホウ素クラスターハイブリッド分子の設計と合成ならびにCombretastatin-ホウ素クラスターハイブリッド分子の設計と合成に成功している。HIF転写阻害活性を調べた結果、いずれも元になった天然物であるManassantinおよびCombretastatinの活性には及ばなかったが、ホウ素クラスター骨格が代用できることを証明できた。特に、Manassantin-ホウ素クラスターハイブリッド分子に関しては、オルソカルボラン、メタカルボラン、いずれも有効であることがわかり、国際学術誌ChemMedChemにて発表したところ、内部表紙に採択された。 また、Combretastatin-ホウ素クラスターハイブリッド分子では、ケミカルプローブ化に成功し、標的タンパク同定を行ったところ、チューブリンタンパクが同定できた。実際に、有酸素状態においても、がん細胞内でチューブリンの重合を阻害しているのではなく、微小管の骨格形成を異常にしていることがわかった。このことより、微小管形成が、HIF転写に何らかの影響を及ぼしていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
25年度では、既に本申請者が見出した高いHIF転写阻害活性を有する小分子、インデノピラゾールならびにrotenone骨格に着目し、構造活性相関を行うことで、活性の向上を目指すとともに、ケミカルプローブ化を行い、標的タンパク同定について検討する。特に、インデノピラゾール骨格を有する化合物は、低酸素状態で誘導されるHIF-1αタンパクの蓄積には影響することなく、HIF転写阻害活性を示すことを明らかにしている。現段階では、合成小分子において、報告されているHIF転写阻害活性分子の中で、最も活性が高い。そこで、このインデノピラゾール骨格をもつ化合物をケミカルプローブすることにより、標的タンパクを同定するとともに、作用機序を明らかにする。 また、rotenoneは報告されている天然物の中で最もHIF転写阻害活性が強い化合物である。その阻害活性は、IC50値で1-5 nMである。そこで、この化合物の骨格を元に構造活性相関を行うとともに、標的分子の探索を行う。具体的には、rotenone骨格にお含まれるカルボニル基やビニル基に着目し、還元的アミノ化あるいはエポキシ化を経て、アミノ基を導入し、アフィゲルに固定することで、標的タンパクを同定するとともに、rotenenに関わるシグナル伝達に関して作用メカニズムを明らかにする。
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