研究領域 | 量子サイバネティクス - 量子制御の融合的研究と量子計算への展開 |
研究課題/領域番号 |
24102704
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
内海 裕洋 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10415094)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 イスラエル / 非平衡・非線形物理学 / メゾスコピック量子輸送 / フォノン |
研究実績の概要 |
近年、超伝導量子素子や半導体量子ドットをもちいて、電荷・磁束・スピン量子ビットのコヒーレントな状態を、制御・検出する技術が発展している。一方で「揺らぎの定理」に代表されるメゾスコピック系の統計力学、熱力学が進歩しており、固体素子を用いて、単一電子における非平衡統計力学が研究されるようになった。メゾスコピック系の統計力学、熱力学は、系を外部から駆動して仕事をしたときの非平衡揺らぎの分布を用いて構築される。このような操作と測定は、固体量子ビットをもちいることで、量子系でも実現できると期待される。本プロジェクトの大きな目標は量子系において揺らぎの定理を検証する方法を理論的に提案することである。 揺らぎの定理を、量子状態のコヒーレント制御・検出という一連の操作に拡張するためには、原理的な問題も含めて課題が多い。実際に時間依存した外場を加えた場合に初めに問題となるのは、ヒーティングをはじめとする外部環境の効果であろう。平成24年では、量子ビットの環境や観測によるディフェージングが引き起こすエントロピーの変化に関して知見を得るために、電子-フォノン相互作用の働く量子ドットの完全計数統計を考察した。そしてキュミュラント生成関数の解析的な性質を分析することで、電子-フォノン相互作用が揺らぎ分布に与える影響を特徴づけた。この研究により、環境とシステムが定常状態にあるときは、揺らぎの定理は常に成り立つという知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は外部環境の効果を明らかにした。計画では1次元伝送線共振器と超伝導電荷量子ビットを対象にする予定であったが、より単純な単一フォノンと結合した量子ドットを考えたことで、より深い知見を得ることができたと考えている。この成果は国外研究者を招聘し共著論文としてまとめた。平成25年度の研究対象である1次元伝送線共振器は単一のボゾンモードで記述できるため、本年度考えたモデルを拡張することで今後解析することができると考えている。また計画では核スピンと結合したGaAs/AlGaAs半導体2重量子ドットも対象にしているが、並行して補助的な研究として磁化ダイナミクスの解析をフォッカープランク方程式を解析し、知見を積み重ねている。これらを理由としておおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究で、外部環境の効果を解析する手掛かりを得ることができた。平成24年度に調べたモデルは、環境効果を調べるには簡単化しすぎているため、より一般的なモデルを導入する必要がある。平成25年度は電圧プローブと温度プローブ、音響フォノン環境を完全計数統計理論により検討する。それと並行して、揺らぎの定理を検証のセットアップを考察したいと考えている。
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