研究実績の概要 |
平成 24 年度はこれまでに開発している 3 次元回転球殻ブシネスク流体モデルをベースとして非弾性系ガス惑星大気モデルの定式化と構築を行った. まず, 回転球殻内の非弾性流体の支配方程式の定式化を行った. 流れ場の定式化ではトロイダル・ポロイダルポテンシャルを用いて非発散運動量(質量フラックス)場を表現した. この導かれた方程式系にしたがって, スペクトル法によるモデルを構築した. 研究代表者ははこれまでに, 地球流体数値実験のための Fortran90 を用いたプログラミングの書法とテクニックについて研究してきている(階層的地球流体スペクトルモデル集 SPMODEL, http://www2.nagare.or.jp/mm/2006/spmodel/index_ja.htm). その手法を用いることにより, 支配方程式をスペクトル変換した定式化をすることなしに直接支配方程式からスペクトル法によるプログラムを構築することができた.
構築したモデルの正当性をチェックするために, 基本場の密度成層を一様に設定して, 回転球殻ブシネスクモデルのベンチマーク数値実験論文(Christensen et al., Phys. Earth Planet. Inter., 128 (2001) 25--34)の追試を行い, 整合的な結果が得られた. 次に回転球殻非弾性系モデルのベンチマーク数値実験論文(Jones et al.,Icarus 216 (2011) 120--135)の追試を行い, この場合も整合的な結果が得られた. これらの結果より構築したモデルの正当性が確認された.
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今後の研究の推進方策 |
今後は, 残された課題である外側境界の不均一な熱境界条件を数値モデルに導入することを推める. 並行して数値モデルの効率化を図りつつ, モデルを用いたパラメター数値実験を行い, 基本場密度分布ならびに内外半径比などの外部パラメターに対する流れのパターンの変化を観察し,物理的に解釈し理解することをめざす予定である.
本研究の枠組では登場するパラメターの数が多く, 通常の回転系での対流問題のものに加えて基本場密度成層の強さがある. 全てのパラメターに対する依存性を調べることは研究期間内だけでは不可能であると判断し, 基本場の密度成層の強さならびに球殻の内外半径比に注目して, その変化に対する依存性を調べる. 熱拡散と粘性の比を表すプランドル数は渦粘性と熱拡散を意識して 1 に固定する. 回転の効果を表すエクマン数は 0.0001--0.00001 程度の範囲のいくつかの場合について扱う.深部の熱的不安定性を表わすレイリー数は, 臨界値の数倍から 10 倍程度の穏やかな値を用いる. 表層の安定成層の強さは, 基本場の密度成層が一様な場合の極限で,ブシネスク系モデルによる過去の研究の設定値に一致するように選ぶことにする. 内外半径比は 0.4 を基本的な計算設定とし, 小さい方は 0.2 まで, 大きい方は 0.8 まで値を変化させる.
ブシネスク系モデルによる過去の研究の設定からスタートして, 次第に基本場密度成層を強くしていったときに生じる流れ場の遷移の様子を観察し, 物理的に解釈し理解することをめざす. 特に注目する点は, 深部の対流運動と平均東西流が表層安定成層へ貫入する様子と, 生成される表層の流れ場のパターンの変化である.
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