惑星は、星の周囲を取り巻く「原始惑星系円盤」の進化過程で生まれるため、その具体的なメカニズムである“中心星への降着”や“星間物質への散逸”の解明は、惑星の形成過程を明らかにする上で極めて重要である。われわれは、天文におけるあらゆる物理・化学プロセスに深く関係する基本パラメータである「金属量」(重元素量)に着目した観測研究をすすめている。前年度までに、観測が比較的容易な銀河系外縁部の低金属量サイドについて、われわれがこれまでに独自に距離と年齢を求めた円盤を持つ星をターゲットとして、「Gemini」8.1mの大型望遠鏡を用いた高感度な可視光多天体分光観測を行った。また、銀河系内縁部の高金属量領域については大きな星間減光をともなうため、「すばる」8.2m望遠鏡の赤外線装置IRCSによるKバンドでの赤外線分光観測を行った。 今年度は、そのうち特に高金属量サイドについて得られたデータを解析した結果、ほぼ全ての天体において、質量降着のトレーサーとなる水素のラインは非常に弱い一方で、円盤の最も内側に存在するガスをトレースする強いCOのラインが検出された。これは、高金属量下では、円盤は比較的高い年齢においてもまだ十分な質量のガスを持っているにも関わらず、質量降着率は非常に低いことを示唆する。われわれは本研究前に、高金属量ほど円盤の寿命が長いという金属量依存性の示唆を得ていたが、その要因となる円盤のさまざまな進化メカニズムのうち、少なくとも中心星への「降着」が関係していることが示唆された。今までの降着モデルは、太陽金属量環境下の観測結果だけに合わせた粘性係数を用いることで説明されてきた。今回のわれわれの結果は、降着プロセスの“肝”である粘性係数にも金属量依存性など大きな制約をつけられる可能性がある。
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