本研究では,「超音波定量診断学」及び「計算解剖学」の構築のため,病変により変化する生体組織音響構造のモデルと超音波画像の計算機シミュレーション手法の高度化,さらに得られた画像変化の知見から,臨床的な病変超音波画像の理解と定量診断手法の確立を行うことを目的としている。そのため,1. 病変組織の音響構造のモデル化と超音波画像の計算機シミュレーション手法の高度化,2. 臨床超音波画像と計算モデル画像の比較による超音波画像の理解,3. 超音波画像の理解に基づく定量診断手法の検討,を行った。 まず,病変により変化する生体組織音響構造の計算モデルの高度化と臨床画像との系統的な比較による超音波画像理解を試みた。解剖学的知識と病変組織音響特性の測定結果を組み合わせ,肝臓組織を対象に,超音波散乱体配置を正常組織構造から病変組織へと再配置し,病変が進行していく様子を段階的に表現した。このモデルで,正常組織での,スペックルパターンと呼ばれる斑紋状の特徴的な超音波画像が,病変の進行とともに変化し,臨床画像の特徴をよく表現することができた。これらの画像と臨床画像を用いた検討から, 肝炎や肝硬変などのような線維化が肝臓全体に進行するびまん性肝疾患では,正常組織,線維組織などに対応した複数のレイリー分布を組み合わせたマルチレイリーモデルで,超音波反射信号の振幅分布を極めてよく表現できることが明らかとなった。 次に,臨床画像から生体組織の音響構造変化を定量的に求める逆問題について検討し,病変の定量診断手法の検討を行った。マルチレイリーモデルを用いることで,臨床超音波画像から線維化した部分の量を定量的に求めることが可能になり,軽度の病変でも安定に評価できることが,組織構造変化のシミュレーションモデルと臨床画像によって確認することができた。
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