研究領域 | 医用画像に基づく計算解剖学の創成と診断・治療支援の高度化 |
研究課題/領域番号 |
24103707
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
有村 秀孝 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20287353)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 粒子線治療 / 患者セットアップエラー / 電子密度ビーム方向像 / パワースペクトル |
研究実績の概要 |
粒子線治療では,ブラッグピークという物理的性質を利用して,通常のX線よりもシャープな3次元線量分布を形成可能であり,腫瘍に線量を集中させ周辺正常組織(特にリスク臓器:放射線感受性が高い臓器)への線量を低減できる.しかし,この特徴は,腫瘍とリスク臓器の形状と位置関係の変化,ならびに粒子線ビーム経路上の電子密度変化に鋭敏であり,わずかな変動により治療成績の低下が起こる.治療計画においては,これらを考慮してビーム方向を決定する必要があるが,これまでは医師の経験的・定性的な知見に基づいて手動で決定されている.本研究では,類似症例グループごとにビーム角度を含む治療計画計算解剖モデルを構築することによって,腫瘍とリスク臓器の幾何学的な形状と位置関係の解析に基づき,腫瘍位置のずれ(時間変化を含む)にロバストな治療ビームの最適角度を自動的に決定する治療支援システムの開発を試みる. 平成24年度は,粒子線治療における電子密度ビーム方向像 の空間周波数成分解析に基づく,患者セットアップエラーに頑強なビーム方向決定法の開発を試みた.提案手法では,電子密度ビーム方向像において高周波成分が少なく,振幅が小さくなるビーム方向をセットアップエラーに頑強であると仮定している.空間周波数成分を評価するために,我々は,電子密度ビーム方向像から得られる,積算1次元パワースペクトルの0次モーメントを用いた.提案手法の評価のため,鼻腔領域腫瘍患者5症例に本手法を適用した結果,放射線腫瘍医の選択したビーム方向の0次モーメントの平均値は,臨床では避けられるビーム方向の値より有意に小さい値となった (p 0.05).したがって本研究では,提案手法は,ビーム方向と,電子密度ビーム方向像のパワースペクトルの0次モーメントの関係から,定量的に,患者セットアップエラーに頑強なビーム方向を決定できる可能性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は,3回の国際会議発表(1回の口頭を含む)を行い,修士論文としてまとめた.さらに,英文の原著論文としてまとめ,米国の医学物理の雑誌(Medical Physics)に投稿中である.
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今後の研究の推進方策 |
本研究で提案する粒子線治療支援システムは,以下の2つのステップ([1],[2])から構成される.[1] 画像特徴量などを用いて,対象症例に対して最も類似している治療計画計算解剖モデルを選択する.[2] 次の2つの手法(①,②)を用いて,対象症例に位置合わせした治療計画計算解剖モデルのビーム角度を最適化する.①対象症例に位置合わせした治療計画計算解剖モデルを用いて,腫瘍とリスク臓器の幾何学的な形状と位置関係を解析 し,最適ビーム角度を決定する手法を開発する.②粒子線ビーム角度から見た腫瘍の形状解析方法を考案し,不適切なビーム角度を検索する手法を開発する. 研究代表者は,放射線腫瘍医,医学物理士,博士課程学生を含めた6名の研究プロジェクトチームで進める.研究代表者のホームページ(http://www.shs.kyushu-u.ac.jp/~arimura/)上での公開と学術論文出版により広く社会・国民にも発信する.すべての成果は特許取得を目指し,国内関連メーカーへの技術移管の推進を目指す. 本年度は最終年度であるので,以下の学術的な面も平行して進める.(1)医療への寄与が大きい,治療効果の高い粒子線治療において,従来の計算解剖学から放射線治療のための治療計画計算解剖学の構築を進める.(2)粒子線治療計画データベースから類似症例を選択し,類似症例グループごとに治療計画計算解剖モデルを構築する手法を開発する. 粒子線治療の分野において,本研究で提案する治療計画を支援する手法が開発されると,以下の点で非常に意義がある.(1)粒子線治療の計画者の負担が軽減され,客観的な治療計画が可能となる.(2)粒子線治療の計画が高精度になる.(3)放射線治療計算解剖学という新たな分野の開拓に繋がる.
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