研究領域 | 先端加速器LHCが切り拓くテラスケールの素粒子物理学~真空と時空への新たな挑戦 |
研究課題/領域番号 |
24104501
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
福田 善之 宮城教育大学, 教育学部, 教授 (40272520)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ニュートリノ / 2重ベータ崩壊 / ニュートリノ質量 / ジルコニウム / 素粒子実験 |
研究実績の概要 |
ニュートリノを放出しない2重ベータ崩壊の観測を目指して、ジルコニウム96を用いた液体シンチレータの開発を行った。イソプロピル基およびエチル基導入したジルコニウム・βケトエステル錯体の合成に成功し、アニソールへの溶解度が少なくとも10w.t.%以上あることを確認した。また、ヘキサンを溶媒として測定した吸収スペクトルのピークは、通常のジルコニウム・βジケトン錯体の270nmから、期待通り240nmに短波長側へシフトしていることも確認した。従って、アニソールの発光(~290nm)によるエネルギーがPPO/POPOP等の二次シンチレータに確実に移動することが期待された。ところが、実際にアニソールにジルコニウム・βケトエステル錯体を溶解させ、PPOおよびPOPOPの2次シンチレータを溶解させたシンチレータカクテルを作成し、放射線による発光量を測定したところ、従来のジルコニウム・βジケトン錯体同様に、溶解させる錯体の量に比例してシンチレータの発光量が減少するクエンチング現象が確認された。そこで、再度アセトニトリルを溶媒として再度ジルコニウム・βケトエステル錯体の吸収スペクトルを測定したところ、270nm付近であることがわかった。これはアセトニトリルの比誘電率が37.5と極性が高いのに対し、ヘキサンの誘電率が1.89と極性が低いことから溶媒効果が起きていると考えられた。そこで、アニソールと同じ比誘電率4.3のジエチルエーテルを溶媒として測定したところ、吸収スペクトルは2つのピークに分かれ、大部分は240nmに移動したものの、30%程が270nm付近に残っており、これがクエンチングの原因であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
期待通りにジルコニウム・βケトエステル錯体の吸収スペクトルが短波長側に移動したのであるが、溶媒効果により液体シンチレータの溶媒の極性が高いと吸収スペクトルが完全に移動しないことが新たに課題となった。
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今後の研究の推進方策 |
極性の高い溶媒による溶媒効果により、ジルコニウム・βケトエステル錯体の吸収スペクトルが短波長側に期待するほど移動しないことがわかった。そこで、より極性の低いトルエン、キシレン、シクロヘキサンなどの溶媒を用いて吸収スペクトルを再度測定し、240nmに移動することを確認するとともに、放射線測定による発光量のクエンチングを抑制させる計画である。一方、溶媒効果が起きる原因として、錯体が一方に置換基を導入した構造であることが考えられるため、例えばジケトンの両方のメチル基をエチル基に置換したマロン酸錯体を合成し、吸収スペクトルの移動を確実に達成することを計画している。その後、大きさが10センチ立方程度のガラスまたはアクリル容器を作成し、鉛遮蔽の中の低バックグラウンド環境下に格納し、液体シンチレータのバックグラウンド測定を行う計画である。
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