研究領域 | 先端加速器LHCが切り拓くテラスケールの素粒子物理学~真空と時空への新たな挑戦 |
研究課題/領域番号 |
24104502
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
曹 基哲 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (10323859)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | フレーバー物理 / 余剰次元模型 |
研究実績の概要 |
(1) B中間子の崩壊、特にレプトにック及びセミ・レプトにック崩壊における、超対称性模型のRパリティを破る相互作用の寄与について、Bファクトリー実験の結果から与えられる制限について調べた。B中間子がD中間子、荷電レプトン、ニュートリノへの3体崩壊において、その分岐比が標準模型とは異なっているという実験結果を受け、スカラーレプトン、スカラークォークの交換するファインマン・ダイアグラムを評価し、また従来考慮されていなかった、複数ダイアグラム間の干渉効果を考慮することでRパリティを破る相互作用に関する定量的制限を得た。また、B中間子がKおよびπ中間子へ崩壊する際のCP非対称性の大きさが標準模型の予言と一致していない、という実験結果について、Rパリティを破る相互作用によって説明することを試み、模型のパラメータ空間に対する制限を求めた。
(2) 湾曲した余剰次元模型の一般的な帰結である新粒子ラディオンに対してLHC実験から得られる制限について調べた。ラディオンは標準模型のヒッグス粒子と同じ生成・崩壊チャネルを持つため、ヒッグス粒子探索実験によって与えられている制限をラディオンに適用できることを指摘し、ラディオン質量に対する相互作用の大きさ(1/Λ)が電弱精密測定実験やグラビトン探索実験等から得られるものよりも厳しく制限されることを示した。
(3) 湾曲した余剰次元を持つ模型における、グルーオンのカルーツァ・クライン励起状態(KKグルーオン)に対するLHC実験の探索可能性を調べた。ある種の条件の下で、KKグルーオンは第3世代クォークとのみ強く相互作用することがありえる。このような場合、従来はKKグルーオンがトップクォークへ崩壊する過程について調べられてきたが、我々はボトム・クォーク対へ壊れる場合について検出器シミュレーションまで考慮して探索可能な条件について調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
B中間子崩壊における超対称性模型の研究、特にRパリティを破る相互作用に関する研究については、特にこの分野の先行研究において採用されてきた仮説(single coupling dominance仮説)を越え、複数の結合定数、複数のファインマン・ダイアグラムの干渉効果を取り入れることで、それがもたらす帰結を定量的に示し、新しい議論を提示できた。これらの研究結果については日本物理学会、国内研究会等で報告し、研究論文として学術誌に投稿すべく、現在準備中である。
湾曲した余剰次元模型は、超対称性模型と並びテラスケールの代表的な素粒子模型である。この模型の最も一般的な帰結である新粒子ラディオンに関しては、電弱精密測定実験に関連する素粒子反応過程への感度があまり高くなかったため、これからの強い制限は得られなかったが、LHCでのKKグラビトンの探索実験、ヒッグス探索実験からの制限を得ることができた。この結果は(途中経過も含め)日本物理学会や国際会議等で報告し、現在研究論文として投稿すべく、準備中である。
湾曲した余剰次元模型におけるKKグルーオンの研究は、ATLASグループで解析を担当する外国人研究者の協力を得て、LHC実験での探索可能性を検出器シミュレーションまで含めて調べたものであり、すでに国際会議で発表、また研究論文として学術誌に投稿し、受理・掲載されている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、当初予定していた研究計画に沿って進めていく。 前年度に行なったテーマに加えて、研究協力者、大学院生の協力を得て、超対称標準模型に対する精密測定実験からの制限を考慮し、LHCでの超対称粒子探索における有用な解析のフレームワークの構築に取り組む。
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