素粒子標準模型が内包する「ゲージ階層性問題」に対する有力なアプローチの一つである、RandallとSundrumによって提唱された、「湾曲した余剰次元を持つ素粒子模型」が予言する新粒子のLHC実験における生成・崩壊について詳細に調べた。 (1)強い相互作用のゲージ粒子であるグルーオンが余剰次元方向に伝搬する場合に生じる、Kaluza-Kleinグルーオン(以下KKグルーオン)のLHC実験における生成・崩壊を詳しく調べた。電弱精密測定実験やフレーバー実験等の結果から、模型に対して現象論的に許されるシナリオはKKグルーオンが第3世代のクォークとのみ強く相互作用するような場合である。従来、このようなシナリオではKKグルーオンがトップクォークへと崩壊する過程について調べられてきた。本研究では、ボトムクォークがトップクォークとSU(2)二重項を形成することから、ボトムクォークへの崩壊チャネルを用いた探索可能性について、モンテカルロ・シミュレーションに基づき、分析を行った。QCDバックグラウンドの影響を抑制するために運動学的変数に課すカット等の条件を工夫したところ、KKグルーオンとボトムクォーク間の結合定数の大きさに関するいくつかのシナリオにおいて、1.5TeV程度の質量を持つKKグルーオンを5シグマ以上の有意さで見出す可能性があることを示した。 (2)湾曲した余剰次元模型では、2枚のD3ブレーン間の距離を一定の値に安定させることでゲージ階層性問題を説明している。この安定化の帰結として、ラディオンと呼ばれるスカラー粒子が電弱スケール程度の質量を持つ。本研究ではラディオンの生成崩壊が標準模型のヒッグス粒子と似ていることから、LHCでのヒッグス探索実験結果を用いてラディオンの質量や結合定数等に対する制限を調べ、それがこれまでに他の実験から得られていたものよりも厳しいということを示した。
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