研究領域 | 有機分子触媒による未来型分子変換 |
研究課題/領域番号 |
24105501
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
吉田 雅紀 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30322829)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 有機分子触媒 / 不斉合成 / アミノ酸 |
研究実績の概要 |
第一級β-アミノ酸を活性中心とした、高活性かつ高立体選択的であり実用的な不斉有機分子触媒を創製することを目標に研究を進めた。平成24年度には2-シクロヘキセノンへのマロン酸ジメチルによるマイケル付加反応を題材に、共役エノンを効果的に活性化するための不斉有機分子触媒の開発に取り組み、触媒として用いる第一級β-アミノ酸の構造が反応の収率や立体選択性に与える影響を調査した。既知法により、α位またはβ位、およびその両方に置換基を導入した様々な構造を持つ第一級β-アミノ酸を合成し触媒として用いた。 まず、α位にのみ置換基を有する種々の第一級β-アミノ酸を触媒として用い反応を行ったところ、マイケル付加体は低収率(30-40%)で得られるのみであり、不斉収率も低い値(1-34% ee)を示した。次に、α位とβ位の両方に置換基を有する触媒を用いたところ、収率は同程度(20-29%)に留まるものの、不斉収率は大幅に向上(14-77% ee)することが分かった。この時、α位の置換基が立体的に小さくなるほど高い不斉収率を与えたため、続いてβ位にのみ置換基を有する触媒を用いて反応を行った。しかしながら、これらの触媒は有機溶媒への溶解度が低いために反応はほとんど進行せず(収率5-7%)、不斉収率もほとんど発現しない(0-24% ee)結果となった。以上の結果から、α位の置換基は小さいが脂溶性の高いβ位置換型第一級β-アミノ酸が本反応に有効な不斉触媒となることが示唆された。このことは、我々がこれまでに得た結果である、β位にシロキシメチル基を有する脂溶性の高い第一級β-アミノ酸を触媒とした場合に高収率かつ高立体選択的(収率71%, 93% ee)にマイケル付加体が得られたことと合致している。 以上のように平成24年度の研究から、第一級β-アミノ酸を不斉有機分子触媒として設計する際の重要な知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度には、種々の合成法により、α位またはβ位、およびその両方に置換基を導入した第一級β-アミノ酸を合成し、シクロへキセノンへのマロン酸ジメチルのマイケル付加反応に対して不斉有機分子触媒として用いることで、共役エノンを活性化する不斉有機分子触媒として最適な第一級β-アミノ酸の構造を調べることを計画していた。研究は計画通りに実施され、様々な置換様式を持つ第一級β-アミノ酸を立体選択的に新規合成することに成功し、その不斉有機分子触媒としての性能を評価することができた。その結果、触媒のα位には置換基を持たないが脂溶性の高い第一級β-アミノ酸が本反応に対する不斉触媒として有望であることが示唆され、我々がこれまでに合成に成功していた第一級β-アミノ酸が触媒として有効であるという知見が得られた。現在、計算化学者との共同研究により反応の遷移状態の解析に取り組んでおり、触媒である第一級β-アミノ酸の構造が反応に及ぼす影響について理論的な側面からも調査を進めている。 研究期間中に合成した種々の第一級β-アミノ酸は、我々がすでに合成していた触媒と比較すると、シクロへキセノンへのマロン酸ジメチルのマイケル付加反応において、反応速度、得られるマイケル付加体の収率、立体選択性のいずれにおいても大幅に低い値を与える結果となったため反応条件の詳細なスクリーニングを行うまでには至らなかったが、様々な第一級β-アミノ酸を立体選択的に合成する技術が蓄積され、平成25年度に計画している研究への重要な足掛かりとなった。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の計画が順調に進展していることから、引き続き計画通りに研究を進めていく。平成25年度はアルデヒドのβ-ニトロスチレンへのマイケル付加を題材に、アルデヒドから発生したエナミンを利用する不斉有機分子触媒として最適な第一級β-アミノ酸の構造を調べる。また、触媒となる第一級β-アミノ酸は平成24年度に実施した方法で合成する。 まず、反応を単純にするため、生成物であるマイケル付加体の不斉点が一つになるようにイソブチルアルデヒドを基質として反応を行い、触媒の構造が反応の収率や立体選択性に与える影響について調査する。続いて、非対称なα位分岐型アルデヒドを基質として用いて同様のスクリーニングを行い、第一級β-アミノ酸の構造がジアステレオ選択性を含めた立体選択性に与える影響について調査する。可能であれば、β-ニトロスチレンの他に求電子剤となる基質との反応へと展開し、第一級β-アミノ酸の不斉有機分子触媒としての適応範囲を拡大に取り組みたい。
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