平成24年度に得られた知見を基に、さらに多様な第一級β-アミノ酸を合成し触媒として用いた。α位およびβ位の両方に置換基を導入した触媒の場合、マロン酸エステルのシクロヘキセノンへのマイケル付加反応においては、置換様式がアンチよりもシンである場合にマイケル付加体の不斉収率が35% ee程度向上することが分かった。触媒のα位置換基としては立体的に小さいほど、マイケル付加反応の不斉収率が向上したことから、β位にのみ置換基を有する第一級β-アミノ酸塩触媒が高い不斉収率を与えることが期待された。平成24年度に合成したβ位のみ置換した触媒は有機溶媒への溶解度が低く、触媒としての評価は困難であったが、高い溶解度を持つ触媒を設計・合成してマイケル付加反応に適用したところ、期待通り高エナンチオ選択的にマイケル付加体を得ることが出来た。当初計画していた研究を発展させ、実験およびDFT計算による反応機構解析を行った結果、立体制御機構に関して重要な知見が得られ、信頼性の高い反応機構および遷移状態を提案することができた。 続いて、種々合成した第一級β-アミノ酸塩触媒を用い、アルデヒドのニトロアルケンへの不斉マイケル付加反応を行った。その結果、α位のみに置換基を導入した触媒は低いエナンチオ選択性を示すものの、β位にも置換基を導入したanti体触媒は高い不斉収率でマイケル付加体を与えることが分かった。一方、syn体触媒はanti体触媒よりも低い不斉収率を与えた。また、β位にのみ置換基を有する触媒の場合も、中程度のエナンチオ選択性を示した。これらの結果は、触媒に導入した置換基の置換様式を考慮した反応の立体制御機構の推測に有用であった。 以上のように、本研究を当初計画通りに実施し、さらに計画を越えて展開することにより、第一級β-アミノ酸の構造が反応に及ぼす影響について重要な知見を得た。
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