研究実績の概要 |
1990年代にGregory C. Fuにより開発されたフェロセンが縮環したジアルキルアミノピリジン誘導体Fc*-DMAP, Fc*-PPYは、特徴的な面不斉構造にもとづくユニークな求核性有機分子触媒であり、優れたエナンチオ選択性を示す。Fc*-DMAPは多くの不斉反応に対して有効であるが、その合成は煩雑であり、また合成の最終段階で「ラセミ体として得られるFc*-DMAP, Fc*-PPYのキラルHPLCによる光学分割」が必要である。そのため大量供給が困難であり、その実践的な応用を阻んで来た。本研究では、Fc*-DMAP, Fc*-PPYおよび新規類縁体を「光学分割すること無しにエナンチオ選択的に不斉合成する手法」の開発をおこなった。我々の戦略は、フェロセン母核の1, 2位にその面不斉を制御しながら適切な置換基を導入した後、閉環メタセシス反応によりフェロセンに縮環したピリジン部位を構築するものであり、新規誘導体を含む種々の面不斉フェロエン縮環ピリジン類が光学的に純粋に得られた。 共役ジエンのC2-C3間の炭素-炭素単結合における回転を制限すると、多置換ビアリール類と同様にアトロプ異性体が生じる。しかし、共役ジエン系の炭素-炭素単結合の回転障壁は通常それほど大きくないため、アトロプ・エナンチオマー間でのラセミ化が容易に進行する。そのため、アトロプ・ジエンを不斉反応場として利用した例はほとんど報告されていなかった。我々は、環構造を持つ骨格に2つの隣接するexo-アリキリデン基として共役ジエンを導入すれば、配座の自由度が制限され、その結果ジエンのアトロプ異性に基づく螺旋不斉化合物が熱的に安定なエナンチオマーとして単離可能なことを見出した。この知見に基づき、螺旋不斉共役ジエン骨格を有する種々のホスフィン誘導体を合成し、それらが不斉有機触媒として優れた機能を有することを見出した。
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