研究領域 | 有機分子触媒による未来型分子変換 |
研究課題/領域番号 |
24105504
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金井 求 東京大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (20243264)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 糖 / 有機触媒 / 医薬品 / 官能基 |
研究実績の概要 |
糖は生体内で多様な生命現象にかかわる重要な構成単位であり、その構造を模倣した多様な医薬品の創出が期待できる。しかし、その高い応用可能性を秘めているにも関わらず、糖を基盤とした医薬品の開発は遅れている現状である。その一つの要因として、糖特有の多数の水酸基に由来する合成の難しさが挙げられる。一般に糖誘導体の合成を行う際には、保護基の脱着過程が必須であり、その操作は煩雑になる。特に炭素‐炭素結合を構築しようとした場合には、フリーの水酸基による求核剤の失活が問題となるため、保護基の利用は欠かせない。このような煩雑な操作を回避し、無保護の糖を直接基質として用いた炭素‐炭素結合形成反応が開発できれば、糖化学の発展における寄与は大きいと考えて研究に取り組んでいる。 糖類の修飾方法としてC-グリコシド結合の形成に着目した。新たなC-グリコシド形成反応として、NHC触媒の利用に着目した。NHC触媒は高い求核力を有する一方で、プロトン性溶媒や水中でも触媒反応を進行させることが知られていることから、多数のヒドロキシ基を有する糖を基質とした場合にも失活せずに働くことが期待された。また、求電子剤を様々に変更することで、同一のBreslow中間体から種々の生成物を得られる点が、従来のC-グリコシド結合形成反応にはない特色である。 糖に特有のヘミアセタール構造を有する単純なモデル基質として、ラクトールを選択し、Stetter反応の初期検討を行った。種々のNHC触媒の中でもチアゾリン骨格を有する触媒が良好な反応性を示した。現在までにエタノール溶媒中、ジイソプロピルエチルアミンを塩基として用いることで、85%の収率で目的物を得ることに成功している。本反応条件を糖類に適用したところ、2-デオキシ糖を基質とした場合に、中程度の収率ながら目的物を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の第一のハードルは、複数の無保護の酸性官能基が存在する基質に対して触媒的に炭素―炭素結合形成をおこなうことであると想定していた。すなわち極性官能基に対して炭素―炭素結合形成能のある活性種は、同様の性質を有する酸性プロトンにより失活してしまう可能性が考えられる。当初はこの問題の克服に時間がかかるものと懸念したが、有機触媒であるN-ヘテロ環状カルベンを用いることで、モデル基質ではあるものの反応性の問題を克服することができている。以上の結果は、少なくとも我々が目指している方針が間違っていないことを示しており、研究がおおむね順調に進展しているものと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
第一に反応性や触媒活性をさらに向上させる必要がある。現状は第一歩を踏み出したとはいうものの、未だ最終目標である無保護の糖類の自在構造変換には距離がある。触媒の構造変換や添加剤の検討により、糖類のアルデヒド型の濃度を向上させることにより反応性を改善していく予定である。第二に立体化学の制御が必要になると考えられるが、これは反応性を向上させたのちに触媒に立体規制基を導入することにより解決できるものと考えている。
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