公募研究
含窒素複素環式カルベンは隣接するヘテロ原子の立体電子効果により安定化された一重項アゾリウムカルベンであり、極性転換反応やRedox反応において特異な反応性を示すルイス塩基触媒である。近年光学活性なトリアゾリウム塩を用いた触媒的不斉反応が多数見出されているが、光学活性なイミダゾリウム塩については、反応性、選択性ともに大きな課題を残している。そこで、本研究ではこれらの問題を解決すべく機能性イミダゾリウム塩の設計と、それらを用いた触媒的不斉反応の開発を目的とする。本年度の研究では二つの課題に取り組み、以下のような成果を得た。1) 高活性イミダゾリウムカルベンの創製および触媒的ラクトン化反応への応用高活性なイミダゾリウムカルベンの創製において窒素原子上の置換基の選択が重要になると考え、これら前駆体として汎用されるIMesClのメシチル基を様々な芳香環に置換したイミダゾリウム塩を合成し、それらの反応性をホモエノラート等価体による触媒的ラクトン化反応において速度論的に評価した。その結果、リード化合物であるIMesClの反応速度に比べ、IEtClは約3倍程度反応速度の向上が認められ、さらに4位に電子求引基である臭素原子を導入したBEtClではさらに反応速度が向上することを見出した。2) アゾリウム塩によるインドール類のFriedel-Crafts型共役付加反応イミダゾリウムカルベンを用いたヘテロ原子の触媒的活性化を応用した共役付加反応を検討していた際、イミダゾリウム塩がインドール類のFriedel-Crafts型共役付加反応において有用な有機分子触媒として機能することを見出した。反応機構について検討したところ、本反応はインドールとイミダゾリウムのカチオン-π相互作用およびイミダゾリウム塩由来の塩化物イオンのルイス塩基的な活性化を契機とした共役付加反応であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
高活性イミダゾリウムカルベンの創製および触媒的ラクトン化反応への応用研究では、触媒活性が大幅に向上したIEtClやBEtClなどを見出すことに成功した。また、これら知見を踏まえて、さらなる触媒活性の向上を目指した研究を行い、本触媒反応が 4位の置換基の誘起効果に左右され、電子求引基によって加速されることも見出した。これらの結果から、当初計画した高活性イミダゾリウムカルベン触媒の創製研究において大きく進展した。また、本研究の最終目標である反応性、選択性、操作性に優れた次世代有機分子触媒の創出を目指し、NHC触媒とキラルリン酸触媒からなる複合型アゾリウム塩を合成し、これら触媒が触媒的不斉ラクトン化反応について低いながらも不斉収率を与えることを見出した(15%ee)。さらに、イミダゾリウムカルベンの進化を目指し、これらを用いたヘテロ原子の触媒的活性化について検討したところ、触媒前駆体であるイミダゾリウム塩の新たな機能を見出すことに成功した。以上のことから、本研究はおおむね順調に進行している。
1)複合型アゾリウム塩の創製と不斉触媒反応への応用(初年度継続内容)平成24年度の研究において見出した触媒的ラクトン化反応において高い反応性を示すイミダゾリウム塩の対アニオンに環状リン酸ジエステルを導入した複合型アゾリウム塩を合成し、触媒活性、エナンチオ選択性について精査する。特に塩基としてアルキルリチウムやグリニャール試薬などリン酸金属塩を系中で生成することで、これらのLewis酸としての応用も検討する。2)メントンを不斉源とするC2-対称性イミダゾリウム塩の創製と複合型アゾリウム塩への応用光学活性なアミノインダノールやアミンを不斉源とするキラルイミダゾリウム塩は報告されているが、反応性と選択性が反比例することやイミダゾール環の窒素原子に芳香環が置換していないため、カルベンの生成に強塩基を必要とするなどの問題がある。そこで、汎用されるイミダゾリウム塩であるIMesClと同等以上の触媒活性を有し、カルベンの生成に強塩基を必要としない光学活性なイミダゾリウム塩を創製する。具体的には、Hoveyda や富岡らによって報告されている隣接不斉基との立体反発を利用した不斉空間構築の概念を応用したC2-対称性イミダゾリウム塩合成し、ホモエノラート等価体の環化反応や申請者が見出したFriedel-Crafts型共役付加反応などを検討する。さらに単一触媒の検討に加え、前年度の複合型アゾリウム塩に関する知見を応用して、不斉リン酸触媒とC2-対称性イミダゾリウム塩の複合型アゾリウム塩へと展開する。複合触媒では、リン酸触媒のキラル因子とNHC触媒のキラル因子が相乗的に働く二重不斉誘導により、さらなる選択性の向上が期待できる。そこで、上記の反応に加え従来の光学活性なアゾリウム塩では不可能であったアルコール類の触媒的活性化に伴う不斉共役付加反応についても検討する。
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