研究領域 | 有機分子触媒による未来型分子変換 |
研究課題/領域番号 |
24105510
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
岡 夏央 岐阜大学, 工学部, 准教授 (50401229)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | リン原子修飾オリゴ核酸 / オリゴ核酸医薬 / オキサザホスホリジン / PS-DNA / 2-ピリジルホスフィン酸 / 2-ピリジルホスホン酸 |
研究実績の概要 |
リン原子修飾オリゴ核酸は、遺伝子の発現を抑制するオリゴ核酸医薬として期待されているが、不斉リン原子を有し、その絶対立体配置の制御は医薬開発に重要である。我々は、オキサザホスホリジン誘導体を立体選択的に合成し、これをアキラルな酸性活性化剤で活性化してリン原子修飾オリゴ核酸を立体選択的に合成する手法(オキサザホスホリジン法)を開発し、最近ではフルオラスケミストリーによる大量合成や、ボラノホスフェートDNA、ホスホロチオエートRNAの不斉合成へと展開している。しかしながら、この手法は化学量論量の不斉源が必要であるなどの問題点を抱える。 そこで、我々は、光学活性なリン酸誘導体を触媒とする新しい不斉合成法の開発に着手し、まずビナフチルリン酸を酸性活性化剤とするPS-DNAの不斉合成を試みた。PS-DNAは、リン原子が硫黄で修飾されたリン原子修飾オリゴ核酸の一種であり、オリゴ核酸医薬として最も有望視されている(これまでに2品目が医薬品として承認されている)。天然型核酸の合成用に市販されているホスホロアミダイトモノマーを、ビナフチルリン酸誘導体の存在下、ヌクレオシドと縮合させた後に硫化し、PS-DNAの2量体を合成した。反応条件について種々検討を行った結果、2量体が最大50% deで得られた。 加えて、我々は2-ピリジルチオホスフィン酸、及びホスホン酸を酸性活性化剤とする合成法の開発に取り組んだ。ホスホロアミダイトモノマーの活性化に用いられる酸は限られており、これまでに報告されている酸性活性化剤は、テトラゾールなどのアゾール類が中心である。そのため、まずホスホロアミダイトモノマーを効率良く活性化する2-ピリジルチオホスフィン酸、及びホスホン酸の分子構造の探索を試みたところ、ピリジル基の4位がアルコキシ基等で置換された化合物が比較的良好な活性を示すことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
天然型核酸やリン原子の立体が制御されていないホスホロチオエートDNA(PS-DNA)の合成用に市販されており、入手容易なホスホロアミダイトモノマーを効率良く活性化し、PS-DNA 2量体を最大50% deの立体選択性で与える新しいビナフチルリン酸誘導体を見出した。この新しい合成法は、近年我々が開発し、リン原子修飾オリゴ核酸の不斉合成法として現時点で最も効率的と考えられるオキサザホスホリジン法におけるモノマーの合成の煩雑さ、不斉補助基の導入と除去の必要性、及び化学量論量の不斉源の必要性などの本質的な問題点を解決する優れた方法になり得ると期待される。また、PS-DNAオリゴマーの合成には未だ不十分であるものの、不斉補助基を用いずに光学活性な酸を活性化剤として用いるPS-DNAの不斉合成法としては、これまでビナフチルテトラゾール誘導体を用いる手法が報告されているのみであり、その立体選択性も24% deと低いことを考えると、今回我々が達成した立体選択性はこの結果を大きく上回るものであり、着実に成果が得られている。 加えて、我々は2-ピリジルチオホスフィン酸、及びホスホン酸骨格を有する新しいキラル酸性活性化剤の開発に取り組み、ピリジル基の4位がアルコキシ基等で置換された化合物が、ホスホロアミダイトモノマーを活性化し、比較的良好な収率で目的とするPS-DNA 2量体を与えることを見出した。ホスホロアミダイトモノマーの活性化に用いられる酸は限られており、これまでに報告されている酸性活性化剤はテトラゾールなどのアゾール類が中心である。このことから、今回の検討結果は、ホスホロアミダイト法によるPS-DNAの不斉合成法への応用が可能なキラル酸活性化剤の新しい骨格を見出した点で意義深いと考えられる。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ビナフチルリン酸誘導体を酸性活性化剤とし、PS-DNA 2量体を最大50% deで合成する手法の開発に成功していることから、この立体選択性の向上を目指し、まずビナフチルリン酸を鍵骨格とする酸性活性化剤の探索を行う。ビナフチルリン酸を有機分子触媒とする不斉合成法の研究は、C-C結合形成反応の分野で特に盛んに行われており、数多くのビナフチルリン酸誘導体が開発されている。本研究の様にリン酸エステル合成への応用例は無いが、反応点は同様にビナフチルリン酸誘導体のリン酸酸性プロトン付近であることから、C-C結合形成反応における不斉場の構築に特に有効な骨格はリン酸エステル合成にも有効である可能性が高い。そこで、C-C結合形成反応に有効なビナフチルリン酸骨格を優先して検討する。 加えて、PS-DNA 2量体を比較的良好な収率で与えた2-ピリジルチオホスフィン酸、及びホスホン酸誘導体の骨格を更に検討し、より活性が高い酸性活性化剤を探索する。また、光学分割法や不斉合成法によりこれらの光学活性体を入手し、PS-DNA合成における立体選択性を評価する。これら2つの検討によって見出されたベストな酸性活性化剤を用い、DNA自動合成機によるリン原子修飾オリゴ核酸の合成を行う。
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