研究概要 |
有機分子触媒による分子変換システム開発という研究項目において,安価な天然アルカロイドであるシンコナアルカロイドを有機触媒として用いたフルオロアルキル基の立体選択的導入法の開発に焦点を当てた研究を展開している。とりわけ,キノリン環の持つπ電子とキヌクリジン環に挟まれた空間で反応を制御することにより,効率的に反応を進めるべく手法を開発しており,今年度は分子状酸素を酸化剤に用いる有機分子触媒的不斉エポキシ化反応の開発に成功した。オレフィンに対する触媒的不斉エポキシ化反応は光学活性エポキシドを合成する最も実用的な手法である。得られたエポキシドは様々な天然物の中間体として用いられ,また医薬品などの生理活性物質合成の際の重要なビルディングブロックである。1980年,Sharpless,香月らはTi(OiPr)4/酒石酸ジエチル/tBuOOH系を用いたアリルアルコールの画期的な不斉エポキシ化反応を報告した。本反応は現在においても強力な不斉エポキシ化反応の実用的手法として広く用いられている。この報告以後,非常に多くの不斉エポキシ化反応の触媒システムが開発されている。金属(Ti, V, Mn, Fe, Zr, Hf, Vなど)と活性酸化剤(各種ペルオキサイド,NaOClなど)を用いる手法,有機触媒と活性酸化剤を用いる手法,および金属(Ruなど)と分子状酸素を用いる手法が挙げられる。しかし有機触媒と分子状酸素を用いる手法は報告されていなかった。β位二置換エノンを基質として,メチルヒドラジン,塩基として炭酸セシウム,第四級アンモニウム塩を用いて反応を行ったところ,エポキシドが高収率,高エナンチオ選択性で得られることを見出した。本反応系は,芳香環上の置換基の種類によらず,電子供与性基,電子求引性基を有する基質に対して,高収率かつ高エナンチオ選択性でエポキシドを得ることが可能である。
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