研究領域 | 有機分子触媒による未来型分子変換 |
研究課題/領域番号 |
24105520
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
松原 亮介 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90401223)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 還元反応 / 触媒 / 光反応 / 有機分子触媒 |
研究実績の概要 |
還元反応は有機合成において最も基本的な反応のひとつである。その中でも、炭素―酸素(C-O)結合や炭素―窒素(C-N)結合を炭素―水素(C-H)結合へと変換する還元反応は、不必要なアルコール基やアミノ基を除去する重要な反応である。しかしながら、C-OH結合やC-NH2結合は大きな結合エネルギーを有するため、ヘテロ原子上に電子吸引基などの活性化基を置換した後に還元する手法が通常用いられている。 本研究のコンセプトを示す。安息香酸エステル、特に電子吸引性の安息香酸エステルがカルバゾール光触媒存在下、光照射により炭素ラジカルを発生し、溶媒中の水素原子を引き抜くことで還元されることが知られている。この時、カルバゾールは再生し、カルボン酸が生成する。そこで、触媒量のカルボン酸と基質のアルコールから系中にてエステルを形成し、カルバゾール存在下光照射を行うことで、カルバゾールとカルボン酸に関して触媒的に進行する反応を開発することを目指した。 そこで、量論量のカルバゾール、安息香酸誘導体、直接的エステル化を触媒することが報告されているIshihara触媒を用いて、6-ウンデカノールの還元反応を試みたところ、反応は全く進行しなかった。原因としては様々考えられるが、励起されたカルバゾールと平衡的に生成するエステルの両者の寿命が短いこと、光反応と直接的エステル化の両方に適した溶媒系ではないことが要因として考えられる。 そこで、電子移動を効率的に進行させる目的で、安息香酸とカルバゾールを同一分子内に導入した触媒を設計した。その結果、カルバゾールと安息香酸エステルが分離している系においては全く反応が進行していなかったのに対して、一体型の基質においては33%のアルカンを得ることができた。さらに、アルケンも副生することも分かり、直接的アルケン合成法にも適用できる可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
デザインした触媒が実際に従来のものに比べて触媒活性が向上することを確認し、第一の目標は達成したと考えている。しかしながら、いまだに直接的エステル化と光反応を同時に実現する反応条件の確立に至っていない。その要因の一つに触媒合成の困難さがあげられる。デザインした触媒の合成において、二つあるブロモ基の一方のみを反応させる必要があった。当初は、一つのブロモ基が反応すると立体的にかさ高くなるためにもう一つのブロモ基の反応性が低下すると予想していたが、予想に反して二つ目のブロモ基も反応してしまうことが分かった。そのため、選択的に目的物を得ることが困難であった。この問題はいまだ解決していないが、混合物として得られたものを分離して次の反応に用いているため、全体の効率への影響は最小限にとどまっている。
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今後の研究の推進方策 |
おおむね計画通りに進める予定であり、目標収率は現在のところ50%である。一番のカギである、直接的エステル化と光反応を同時に一つのフラスコ内で実現するためには、溶媒や温度など、細かな反応条件の検討が必要となると考えており、系統的に研究を進めていく。 現在直面している問題は、触媒合成において選択性が悪いために、触媒供給が満足な状態ではない点である。この点に関しては、金属塩の種類や溶媒、反応温度などを精査して選択性の向上に努める予定である。その後、さまざまな触媒の類縁体を合成することで、直接的アルコール還元反応の実現を図る。
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