研究概要 |
我々は、「光エネルギーを用いる触媒的アルコール還元反応の開発」を目標とする研究を行った。アルコールをアルカンへと還元するためには、従来法ではアルコールを一度活性化したのち還元剤を作用させる必要があった。そこで、安息香酸エステルが光触媒であるカルバゾール存在下、光により還元される反応を応用し、アルコールから系中で安息香酸エステルを形成しつつ光照射することで、直接的に一段階でアルコールをアルカンへと還元する検討を行った。 溶媒、反応温度、添加剤などの種々の反応条件を検討した。その結果、様々な問題が露呈した。一番問題となったのは、①直接的エステル化では高濃度(0.5 M)、低極性溶媒(ヘプタン)条件、②光反応では低濃度(2 mM)、高極性溶媒(THF-MgClO4 aq)条件、がそれぞれ適しているという相反する最適条件である。この妥協点を探る検討を行ったところ、光反応は1,4-cyclohexadieneを還元剤とすることで、低極性溶媒、高濃度においても高収率で反応が進行することが分かった。そこで、実際にアルコールの直接的還元反応を検討したところ、低収率ながら望み通り二級アルコールを還元することができた。光を照射しないと全く反応が進行しないことから、期待した通りの反応機構で反応が進行していると考えている。 収率向上のためには、励起状態の寿命が短いカルバゾールと電子受容体である安息香酸部位を立体的に近接する必要があると考えた。そこで、同一分子内に両者が導入された種々の分子を合成した。今後、各基質の励起状態の寿命を時間分解ESRで測定し、分子構造の最適化を行う計画である。
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