エステルの不斉加水分解は、酵素や微生物を触媒として早くから利用され工業化もされてきた実用反応である。我々は「エステルの塩基加水分解の不斉反応化」を考え、有機分子触媒である不斉四級アンモニウム塩を用いて研究を行ってきた。不斉四級アンモニウム塩は丸岡触媒に代表されるように、これまでに有機触媒としてキラルなエノラートによるアルキル化反応などで実績があるが、ここでエノラートではなく、有機層中にキラルなOH–を発生させ基質と反応させることにより不斉加水分解を達成する計画で、これまでにエノールエステル(最高95% eeを達成)や一般のエステルの不斉加水分解(最高85% eeを達成)を行っている。また我々は、理論化学の研究グループである九大先導研吉澤研と共同研究を行っているが、理論化学、計算化学的手法で得られた知見から、不斉制御の改良を試みるいわゆる in silico design での研究も推進し、その有効性を示すことに成功している。さらに、応募者の研究室では、有機触媒、金属錯体触媒の分子触媒のほか、酸化物担持金属ナノ粒子に代表される固体触媒の研究も行っている。有機触媒は大きく発展しているが、固体触媒や錯体触媒に比べて触媒回転数が低いことが多く、実用性は十分に高いとは言えない。そこで、実用性という観点では非常に優れている固体触媒、ナノ粒子触媒とハイブリッド化した協同触媒を開発する。単に固定化するだけでも実用性は高くなるが、それだけでなく固体触媒の得意とするヒドリドの移動や酸化還元能を有効利用しつつある。
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