研究実績の概要 |
本研究は,ビス(トリフリル)メチル(Tf2CH; Tf = CF3SO2)基を有する炭素酸,およびその類縁化合物の効率的な合成手法を開発するともに,それらの有機分子触媒としての性能評価を行うものである.こうした検討により,炭素酸構造を「有機分子触媒を設計する際の新しい酸性官能基」として提案することを目的としている. 既に,フェノールなどの電子豊富アレーンと1,1,3,3-テトラキス(トリフリル)プロパン(以下,テトラスルホンと略記)の反応により,アレーン骨格に炭素酸部位を導入する手法を開発した.本年度は,まず,このテトラスルホンを用いた様々な求核種との反応を検討した.その結果,活性メチレン化合物やケトン,イミドなどの様々な中性求核種と速やかに反応し,対応する炭素酸を収率良く与えることを見出した.特に,マロン酸エステルとの反応で得られた炭素酸のX線結晶構造解析を行ったところ,分子間での二つのC-H…O相互作用が見られ,計算科学的手法によって,軌道間相互作用を含む水素結合様の相互作用であることを明らかにした.また,アニリン類との反応では,カルボアニオン部とアンモニウム部を併せ持つ双性イオンが得られることを明らかにした.この化合物の構造は,NMR分光法および回折結晶学的手法により,詳細に解析することができた.さらに,双性イオンのpKa値(DMSO)は2.4であり,酸触媒として利用しうる値であった.この知見は,双性イオン構造中のアンモニオ基を,有機分子触媒に適用可能な新しい酸性官能基として提案するものである. いくつかの炭素酸および双性イオンについては,実際に,酸触媒として利用も検討した.その結果,ラクトンとケイ素エノラートの反応において,炭素酸触媒を用いるとオレフィン化反応が,双性イオン触媒を用いるとMukaiyamaアルドール反応が効率よく進行することを見い出した.
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