研究領域 | 多彩なフレーバーで探る新しいハドロン存在形態の包括的研究 |
研究課題/領域番号 |
24105711
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大西 宏明 独立行政法人理化学研究所, 岩崎先端中間子研究室, 専任研究員 (60360517)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | MRPC / エータプライム中間子 |
研究実績の概要 |
本研究ではハドロン質量起源であるカイラル対称性の自発的な破れを擬スカラー粒子であるエータプライム中間子の質量変化を通して観測しようという研究である。実験手法としては、原子核中で起こる p(γ,p)η'反応に注目し、η'の質量が軽くなる現象を生成敷居値エネルギー以下での生成断面積の増加現象として捉えようというものである。本測定において必要不可欠な検出器が前方(0度方向)で陽子を捕まえるために建設する前方ToF検出器である。本研究では、このToF検出器を近年開発が進んでいるガス検出器、Resistive Plate Chamber で製作する。 本研究年度、この前方ToF検出器のプロトタイプを製作し、その性能評価のためのテスト実験をSPring-8/LEPS実験の設備において行った。成果としては、検出器本体の 1.0m x 0.2m への大型化に成功したこと、時間分解能としても目標値である 50ps に迫るものを完成させた事を上げることができる。また、検出器から出てくる微弱信号を増幅するための回路、プリアンプ回路の試作も行なった。年度始め、最も大きい問題として浮かび上がってきたのは検出器の信号がプリアンプ入口で反射してしまうという事である。数回に及ぶテストの結果、この信号反射の問題はプリアンプを検出器に直付けすることで解決できることを見出した。以上、実機に使うために必要な仕様を満たすものの製作が可能である事を確認した。 さらに本検出器のデータを収集するための回路系、TDC、ADC候補であるVMEベースの汎用ボードを購入し、検出器性能が最大限発揮されるかどうかについての性能評価も並行して行い満足できる結果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究の目標は、検出器本体および検出器信号増幅回路(プリアンプ)の試作機を製作しその性能評価を行うことであった。本年度、まず検出器本体の試作、特に実機と同じサイズである大型検出器の製作に成功した。この大型検出器のSPring-8/LEPS施設におけるビームテストの結果は、我々の要求性能である時間分解能50ps以下を十分達成できるレベルのものであることが確認できるものであった。また、検出器量産に必要な技術の蓄積を行うことができた。特に、大型薄膜ガラスの取り扱い方法など、当初考えていなかった問題点を洗い出すことができ、今後の量産を遅延なく行うための基本的な情報を得ることができた。 一方、信号増幅回路については、いくつかの初期不具合があったものの最終的に検出器と一体になり運転できるボードの製作に成功した。現在最終試作基板の設計段階である。以上のことは、今年度中に目標としてきたToF検出器の基本特性に関するすべての条件を洗い出すという点において順調に進んできた結果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の重要な課題は検出器実機の製作、検出器のLEPS2実験施設への設置およびデータの収集作業ということになる。 最終的な検出器単体としての構成には既に決定しているが、面積 1m x 1m を超えるような大型検出器をどのように製作・設置するかについての検討がまだ行われていない。そこで今後の緊急の課題としては大型検出器建設をしやに入れた最終プロトタイプの設計・製作である。また、検出器が大型化、多チャンネル化することにより、高電圧供給系、検出器ガスシステム等を整備してことも忘れてはならない課題である。 以上のすべてが解決された後、速やかに検出器を実験現場であるLEPS2実験施設への設置を行う。2013年1月より既にγビームが実験施設に供給されているので、検出器設置後の検出器コミッショニングはLEPS2実験施設でのγ線ビームを使い行うこととする。 そして年度末までに第一回の実験データ収集を目指す。
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