研究領域 | 超高速バイオアセンブラ |
研究課題/領域番号 |
24106503
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
松井 裕史 筑波大学, 医学医療系, 講師 (70272200)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 細胞培養系 / 3次元培養 / がん正常共培養系 / 抗がん剤 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では「1.正常―がん細胞クロストークが細胞に与える影響」と「2.薬剤投与による細胞秩序の崩壊および細胞秩序の回復と組織の再構成挙動」について検討を行った。これらの検討により1.2次元平面上での正常細胞とがん細胞が形成する細胞社会秩序がどのように形成されるのか、あるいは2.抗がん剤が正常細胞とがん細胞に対して同一比率で殺傷効果を示すのかを明らかにした。 1.の結果、正常細胞とがん細胞は同一比率で混合した場合には初期播種細胞量に関わらず24~72時間の間に境界がはっきりとわかる正常細胞群とがん細胞群が形成されていた。2種細胞間での境界は基本的に交わることが無いが、局所的に境界が交わっている領域を3次元画像撮影すると、正常細胞の下にがん細胞がもぐり込み浸潤していた。どのような条件下でがん細胞が正常細胞の下に浸潤していくのかはまだ明らかではない。 2.の実験では抗がん剤5-FU, ドキソルビシン、シスプラチンの3種類を用いた。同数の正常細胞とがん細胞共培養中に24時間抗がん剤を曝露して細胞秩序を崩壊し、薬剤不含有細胞培養培地に交換して1週間程度まで細胞社会秩序の再構築挙動を評価した。その結果、ドキソルビシン、シスプラチンは両細胞に対して同等の細胞殺傷効果を示した。また、細胞社会秩序の再構築挙動においても初期状態と生存細胞の正常/がん細胞比は変わっていなかった。しかし、5-FUを細胞に曝露して再構築挙動を見た結果、薬剤曝露後72時間で正常/がん細胞比が明らかに正常細胞有意となる結果が見られた。本現象について5-FUまたはシスプラチン曝露時のタイムラプス撮影を行うと、薬剤曝露時には細胞の死滅はほとんど観測されないが、正常培地に交換後72時間ほどで一気にがん細胞が死滅していくことが明らかとなった。 上記検討はがん悪性化のメカニズム解明と、効率の良いがん化学療法を推進する結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H23年度は,視覚で容易に細胞挙動を見られる緑色蛍光発現ラット正常胃粘膜細胞RGM-GFPおよび赤色蛍光発現ラット正常胃粘膜細胞由来がん様変異細胞RGK-KOの2種類を樹立し,3次元培養中での細胞の浸潤挙動を観察した.合わせて,活性酸素消去遺伝子発現がん様変異細胞RGK-MnSODを用いて細胞の動きに対する検討を行った. 1)活性酸素に着目した細胞の動きに対する解析:活性酸素を消去する内在因子としてマンガンスーパーオキシドジスムターゼ(MnSOD)がある。これはミトコンドリア由来の活性酸素を特異的に消去する酵素であるが、本酵素を発現させることにより細胞の動きが抑制される結果を傷害修復試験から得られた。 2) 3次元培養状態での細胞形態の解明 樹立したRGM-GFPおよびRGK-KOを用いてマトリゲルに対する細胞浸潤挙動を確認した。正常細胞はマトリゲル上に積層したまま浸潤することは無かったが、RGK-KOは経日的に浸潤突起を伸ばしながら浸潤する挙動が見られた。またRGK細胞の3次元培養をタイムラプスにより観測したところ、浸潤突起は先端を揺らしながら徐々に伸びていく様子が見られた。 以上視覚的に鑑別可能ながん正常培養細胞共培養系を確立し、細胞のタイムラプス観察によって正常細胞とがん細胞の動き:特に細胞間基質を越える能力の有無と三次元的増殖能の有無が大きく頃なることを見いだした。さらにこの差異がミトコンドリア由来活性酸素に由来することを示唆する結果を得ている。 がん細胞がコンフルエントな正常細胞の細胞間基質や細胞の下に潜り込んで移動する様子を経時観察できたことは従来知られていた浸潤様式を根本から覆す結果であり、今後の研究の方針決定に大きく寄与したといえる。今後はこらえらの結果に基づいてがんの増殖や浸潤に関する検討を加えて行く
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今後の研究の推進方策 |
上述したようにGFPタンパクを恒常的に発現する胃粘膜正常培養細胞系RGM-GFPとKOGFPタンパクを恒常的に発現する胃粘膜がん培養細胞系RGK-KOに加えて、ミトコンドリア特異的活性酸素消去酵素MnSODを恒常的に発現する細胞系RGM-MnSOD,RGK-MnSODを用いた系で研究課題を推進する。 がん細胞がコンフルエントな正常細胞の細胞間基質や細胞下を遊走可能である事に着目し、コンフルエントな正常細胞上に各種抗がん剤の濃度グラデーションを作成する。赤色蛍光タンパクを発現させたがん細胞の動きをタイムラプス観察し、「がん細胞が抗がん剤から逃げる能力を有するか」を検討する。以上の研究計画には横浜国立大学福田淳二同研究班員と共同研究を行う。この一連の浸潤に関連する細胞運動にミトコンドリ由来の活性酸素が果たす役割についても検討を加える。さらにがん遊走(がん浸潤突起形成)に関与するアクチン、低分子GTPタンパクを阻害するような薬剤の効果についても検討を加える予定である。 また、本年度は小動物発がんモデル由来のがん組織から得られた細胞を用いて、未分化の細胞を採取する方法を確立する計画である。すなわちがんと正常細胞の浸潤(遊走)能の差が、細胞間基質を越えて移動できるかどうかであることに着目して、人工細胞間基質モデルであるマトリジェルあるいは各種硬度を有するゲル内に細胞を播種し、浸潤突起の形成を観察することによって、より悪性度の高いがん細胞の選別を可能とする系の確立を試みる。このため産業総合研究所の杉浦慎治研究員(同領域研究班員)と共同研究体制を確立する。具体的ながん細胞の選別方法やその採取方法はすでに確立してあるが、知的財産権に関わるため詳細は記載しない。
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