研究領域 | 超高速バイオアセンブラ |
研究課題/領域番号 |
24106508
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
松本 卓也 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (40324793)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | バイオマテリアル / バイオミメティック / バイオメカニクス / 細胞操作 |
研究実績の概要 |
天然多糖であるアルギン酸ナトリウムは水に可溶性であり、また、カルシウムイオンなど2価の陽イオンの存在によりキレート結合しゲル化する。この性質を利用し、アルギン酸ナトリウムの濃度を変えることで、堅さの異なるアルジネートゲルを作製した。この堅さは1-200 kPaであり、これら堅さは生体内組織の堅さ、例えば、脳など神経系の柔らかい組織から、類骨など固めの組織を反映した値である。この堅さの異なる環境で唾液腺組織を培養したところ、堅さが堅いと唾液腺成長が抑制され、柔らかいと成長が促進することが明らかとなった。さらにそのメカニズムを検討したところ、唾液腺構成細胞が柔らかい環境ではFGF7,10といった増殖因子をよく発現していることが明らかとなった。 一方、フィブロネクチンは一般的には細胞接着に関与するタンパク質として知られているが、唾液腺組織の分岐においても、このタンパク質の存在が重要な働きを示すことが報告されている。そこで、フィブロネクチンに存在する細胞接着モチーフであるRGDを基本としたペプチドを合成、アルジネートゲルにアミド結合により固定化した。このゲル材料は細胞接着性が高くなっており、RGDの固定化が確認された。このゲルにおけるペプチド固定化条件、例えば、ペプチド濃度や濃度勾配といった条件を変えることで、より詳細な腺組織形態制御の可能性が高まった。 また、腺組織の酵素処理条件を吟味し、各種細胞(上皮細胞、間葉細胞、神経細胞)をそれぞれ単離できる条件を確立した。この実験系は物理的環境、化学的環境が唾液腺組織成長に及ぼす影響をマルチスケールで検討するための重要な実権系として有望である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
堅さ環境を変えたゲル材料系を元に、唾液腺組織成長の制御を達成し、さらにそのメカニズムとして、堅さ環境がことなることにともなう増殖因子の発現変化を確認した。 細胞接着に関与する機能性ペプチド固定化ハイドロゲルを作製し、そのゲル上での唾液腺組織成長の検討が可能となった。 さらに、適切な酵素処理を施すことで、各種細胞(上皮細胞、間葉細胞、神経細胞)をそれぞれ単離できるようになり、これら細胞をつかった次ステップの研究の基盤が出来上がった。
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今後の研究の推進方策 |
機能性ペプチドの分布および局在を制御できる基板材料を作製。この基板を用いた唾液腺組織培養により、唾液腺組織成長の人為的な操作を達成する。また、この特殊環境による成長制御メカニズムのさらなる理解のため、マルチスケール、すなわち細胞レベル、分子レベルにスケールを落とした検討を行う。具体的には、唾液腺を構成する細胞である、上皮細胞、間葉細胞、神経細胞、それぞれの増殖や運動、神経突起の伸長について、堅さ環境や機能性ペプチド存在環境など様々な条件下での検討を行う。また、これら機能に影響をおよぼす分子の発現量変化、時間、空間的発現動態変化について検討を行う。 もう一点、これら成長において生じる形態変化は細胞、基質動態の総括であり、その中には細胞の増殖、運動、さらには各々の細胞間、基質間接着、細胞内牽引力、基質沈着、基質分布など様々な要素が関与する。そこで、今回作製する人為的環境を、この理解のために利用する。具体的には組織レベル、細胞レベル、分子レベルでの力学変化を原子間力顕微鏡など力学検知デバイスを用いて時間空間的に検出する。これら情報と組織レベル、細胞レベル、分子レベルでの生物学的情報(細胞数変化、細胞接着変化、基質分布状態等)とを照合、比較することで、組織特異的形態の形成について検討する。 また、このような環境は、他組織の成長制御につながる可能性もあることから、同様の環境での他組織の器官培養についても着手し、検討を行う。
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