研究領域 | 反応集積化の合成化学 革新的手法の開拓と有機物質創成への展開 |
研究課題/領域番号 |
24106714
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
深澤 愛子 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70432234)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 反応集積化 / π共役 / 光物性 / 発光特性 / 分子内環化 / 典型元素 / リン / ホスホール |
研究実績の概要 |
ホスホールオキシドは,ホスホリル基の電子求引性に起因してヘテロール類の中でも極めて高い電子受容性をもち,π共役系の基本骨格として近年活発に研究されている.報告されているホスホール誘導体の多くは,π共役の拡張に有利な2,5位に構造修飾を施したものがほとんどであるのに対し,3,4位の置換基は励起状態でのダイナミクスを左右する重要性をもつと考えられている.本研究では,3位に様々なアリール基を導入し励起状態の性質に大幅な摂動を与えることで,特異な発光特性をもつ分子系を実現できるのではないかと考え,検討をおこなった. 第一に,最も基本的な構造をもつホスホール誘導体として,3位に様々なアリール基をもつ誘導体の合成に取り組んだ.ジエチニルホスフィンの分子内環化および後続のクロスカップリング反応を時間的に集積化させることで,種々のテトラアリールホスホール類の迅速合成を達成した.得られた化合物群の発光特性は3位のアリール基の種類およびリン上の酸化状態に著しく依存し,特に,3位に4-アミノフェニル基をもつホスホール誘導体はCH2Cl2中でも顕著に高い蛍光量子収率 (ΦF = 0.23) をもつことを明らかにした.また,フェニルアセチレンの分子内環化を鍵とする時間的反応集積化により,3位に種々の電子供与性アリール基をもつベンゾホスホールオキシド類を合成し,得られた化合物群の発光特性について調べた.その結果,3位にアミノフェニル基をもつ誘導体が,溶媒の極性が増大するにつれ蛍光量子収率が上昇するという特異な溶媒効果を示すことを見いだした.以上はいずれも周辺置換基の修飾のみならずリン上の酸化数変化によって励起状態の性質が制御可能であることを示唆する結果であり,刺激応答性発光材料への展開の可能性が期待できる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,有機エレクトロニクス分野の最重要課題の一つである優れた有機半導体や発光材料の開発を指向し,標的化合物の分子設計と連動した反応集積化法の確立を目指すものである.具体的には,有機半導体の基本骨格としてリンを含む五員環ヘテロールであるホスホールに着目し,ホスホール骨格の簡便,迅速,かつ一般性の高い合成法の確立することで,実践的応用に資する新たな機能性有機材料の開発に結びつけることを最大の目的とする. 本年度は,時間的反応集積化法の確立により,テトラアリールホスホール類およびベンゾホスホール類の二種類の化合物群の迅速合成を達成することができた.さらに,いずれも得られた誘導体の中から特異な発光特性を示す化合物を見いだし,各種物性測定および理論計算によりその機構を明らかにすることができた.後続反応との反応集積化や半導体材料への展開についてはさらなる検討が必要であるものの,時間的反応集積化によって一連の化合物の迅速合成法を確立することができたという点で概ね研究計画は順調に進展しているといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は主に,後続反応との反応集積化を軸に,前年度で見いだした発光特性のさらなる応用や,優れた半導体材料への展開について向けて検討をおこなう. (1) 分子内環化と後続反応を組み合わせた時間的反応集積化法の確立:前年度の検討により,オルト位に臭素原子の置換したアリールアセチレンを出発原料とし,分子内環化を鍵とする三段階のワンポット逐次合成により3-ブロモベンゾホスホール骨格を構築した後,遷移金属触媒クロスカップリング反応とリン上の酸化反応をワンポットで逐次的におこなうことに成功した.しかし,収率や基質適用範囲という観点ではさらなる改善が必要である.本年度ではクロスカップリング反応との反応集積化の効率向上のための条件検討を徹底的におこなうとともに,さらなる後続反応の集積化に挑戦する. (2) π拡張型ベンゾホスホールオキシド類の発光特性の解明と水溶性発光材料への展開:前年度の研究により,3位にπ拡張部位をもつ種々のベンゾホスホール誘導体の中でも,電子供与性アリール基をもつ誘導体が特異な 蛍光発光特性をもつことを見いだした.当初研究目標に据えていた有機半導体とは異なるものの,有機エレクトロニクスおよびバイオイメージングに向けた新たな発光性分子骨格として興味深い.本年度は,リン上の置換基修飾に特に着目し,誘導体の合成確立および物性解明について検討をすすめる.
|