研究領域 | ナノメディシン分子科学 |
研究課題/領域番号 |
24107504
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
上野 裕則 東北大学, 国際高等研究教育機構, 助教 (70518240)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 繊毛・鞭毛 / イメージング / 分子モーター / ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
空気中には多くの雑菌(細菌、ウィルスなど)が含まれているが、肺の手前にある気管・気管支の繊毛運動によって空気を清浄化(クリアランス作用)し、これら異物を体外へ排出している。この繊毛運動に異常が生じると、クリアランス作用が行われなくなり、様々な感染症の原因となる。本研究では、この気管上皮細胞で行われる繊毛運動に焦点をあて、研究を行っている。本年度は、繊毛運動の詳細な定量化を行っており、特に1つの細胞内において複数の繊毛運動を同時に解析し、その運動の速度、向き、同期性に着目して研究を行った。その結果、気管組織中において単一繊毛細胞内の複数の繊毛運動の位相はある程度振動しているものの、ほぼ同期して運動している事が分かった。また、この運動によって気管表面にどのような流体が形成され、その流体が外部溶液の粘性変化によってどのように変化するのかを繊毛運動も含めて解析した。外部溶液に粘性を負荷するため、メチルセルロースを様々な濃度で溶かし、その溶液中での繊毛運動と粒子の輸送速度を解析した。その結果、少し粘性を負荷した方が、外部流体の速度は高くなり、その後粘性を高くするにつれて、徐々に輸送速度が低下していった。しかし、まだ実験回数が少ないため、今後さらなる検証が必要である。また、今年度は気管繊毛の構造をクライオ電子線トモグラフィー法によって解析した。主に、繊毛の外腕ダイニンについてヌクレオチドのある状態とない状態において、どのように構造が変化するのかを解析した。その結果、ATPとヴァナジン酸存在下において、外腕ダイニンの2つの頭部は両方とも、微小管のマイナス端方向へ約8nm移動していることが分かった。しかし、2つの頭部間の移動には顕著な協調性はなくほぼランダムに運動しているらしい事が分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
応募時の研究目的に沿った研究計画の通りに、概ね順調に研究が進行している。本研究課題では、気管の繊毛運動に着目し、その運動、気管上皮細胞表面の外部流体、クライオ電子線トモグラフィー法による気管繊毛の3次元構造をナノメートル精度で検証することに挑戦している。気管繊毛運動の高精度イメージングについては、既にシステムを構築し、約8nmの制度で蛍光粒子の中心位置を追跡することが可能となっている。本研究ではこのシステムを用い、繊毛の先端に量子ドットを付加させ、その蛍光の中心をマウスから取り出した気管組織上でナノメートル精度で追跡することができた。また、1つの細胞内の複数の繊毛に蛍光ラベルすることができ、それらの運動を同時に解析することによって、運動の速度、向き、位相についてもデータを得るところまで研究を進展させることが出来た。また、当初予想していなかった新しい知見も見つかり始めており、今後の研究の進捗が期待される。外部流体についても、粘性の影響について結果を得ており、当初予想していなかった興味深い結果も得られ、今後の研究の進捗が期待される。気管繊毛の3次元構造解析については、クライオ電子線トモグラフィー法により3次元構造を得ることに成功し、さらに、画像解析の際、軸糸構造中の外腕ダイニンのみに限定する事によって、約3.7nm の分解能で構造を得ることに成功し順調に結果が出ている。
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今後の研究の推進方策 |
気管組織中で単一細胞における繊毛運動の協調性については、昨年度の研究で解析できた。今年度は複数の細胞間において繊毛運動の向きや位相、周波数がどのくらい揃っているのかを検証する。これは、気管組織全体で細胞の極性(繊毛運動の向き)や繊毛運動の位相などがどの程度維持されているのかを検証し、気管組織全体のクリアランス機能まで議論できるようにしたいと考えている。 粘性と繊毛運動の関係はさらに詳細に調べる必要がある。気管表面の粘性は気道のクリアランス作用に直接関わる重要な要素であると考えられている。昨年度は外部流体の粘性と流体の速度、繊毛運動の周波数の関係を解析してきたが、実験回数が少ないため、本年度も引き続き同様の研究を行い確かなデータを得る必要がある。 繊毛構造の3次元構造解析については、さらに詳細な構造を得るため傾斜情報のデータ量を増やすとともに、画像解析を工夫し、気管繊毛の3次元構造の分解能の向上を目指す。また、ATPなどのヌクレオチドが存在する場合に、構造がどのように変化するのかをより詳細に調べる必要がある。 上記の3点の実験について、喘息や呼吸器に病気を持つ疾患モデルマウスを用いて同様の研究をする。これは、このようなナノレベルの高精度イメージング技術を病気の診断や原因を解明するためのツールとして使用したいと考えているからであり、今年度はその第一歩を踏み出せればと考えている。
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