公募研究
今日の細胞生物学的に重要な問いに答えるためには、生きた細胞の中で生じるダイナミックな過渡応答を連続して計測することが求められる。そのために、標的タンパク質の位置情報に加え、局所的な環境情報を同時に得られるプローブを新規に開発し、また計測系を構築することを目的としている。2012年度はこのプローブを構成するモジュールうち、まず標的タンパク質を選択的にラベルする手法を開発した。ターゲット分子をヒスチジンタグ(His-tag)に選び、これとの親和性が高いリガンドをスクリーニングした。His-tagをターゲットにするリガンドのライブラリーは、反応性が高いクリックケミストリーによる手法を用いて合成した。複数のリガンドが含まれる溶液中に、標的のHis-tagを混合し、生じた複数の複合体それぞれについて気相系での安定性を算出した。結果として、非対称な構造を有するある一つのリガンドが、気相系でもっとも安定にHis-tagと結合している化合物として見出された。更に、気相での複合体が安定であればあるほど、溶液中での解離速度が低下する傾向のあることが分かった。最終的に、このスクリーニングで得られた最も解離速度の遅いリガンドを備えた蛍光プローブを作成し、アクチンフィラメント上を歩行運動するHis-tag付きのミオシンVの一分子観察が可能であることを示した。本研究成果について、国際化学系雑誌に発表した(Arai, et al., 2012)。さらに申請者らが新規に開発してきたナノ温度計(Oyama, et al., 2012)の性能を改善することに成功した。細胞内で高精度に温度変化を捉えるには、種々の外部環境に対して安定であることに加え、深さ方向のノイズをキャンセルするためのレシオ測定が必要とされる。そこで、温度応答しない蛍光色素を粒子に追加導入し、単一粒子によるレシオ測定を可能にした。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究で開発する新規プローブを構成するモジュールのうち、標的タンパク質を選択的に標識する部位が一つ完成し、論文発表を行った。さらに、細胞内環境を計測する部位については、ひとつが学会発表においてポスター賞を受賞し、さらにその改良版の開発に成功した。以上のことから、現在までの達成度を「(1)当初の計画以上に進展している」とした。
現在までに、研究計画を大きく変更する方針はない。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (10件)
Lab on a Chip
巻: 12 ページ: 1591-1593
10.1039/C2LC00014H
ACS Combinatorial Science
巻: 14 ページ: 451-455
10.1021/co300028n