研究領域 | ナノメディシン分子科学 |
研究課題/領域番号 |
24107525
|
研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
三好 大輔 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 准教授 (50388758)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 分子クラウディング / テロメア / DNA / リガンド / 熱力学 |
研究実績の概要 |
細胞内は生体分子が混み合った分子クラウディングにある。そのため、細胞内に存在するDNAの機能や分子反応を解明するためには、細胞内分子環境を化学的に構築し、その分子環境においてDNAの諸物性を定量解析する必要がある。そこで本研究では、様々な合成高分子や生体分子で分子クラウディングを誘起し、細胞環境の化学模倣の精密化を試みる。さらに、この細胞模倣環境において、細胞のがん化や加齢に関与するテロメアDNAが形成する四重らせん構造の定量的諸量を算出する手法を確立することを試みる。 平成24年度には、合成高分子を用いて分子クラウディング状態を試験管内で再現した。この環境下において、テロメアDNAの四重らせん構造とその熱力学的安定性を定量的に解析した。その結果、長鎖テロメアDNAが、四重らせん構造をユニットとして連結したような数珠構造を形成していることが示された。さらにこの一般性を検討するために、様々な配列をもつグアニンに富んだDNA鎖を設計し、熱力学的安定性と水和状態を検討した。その結果、ループ部位に強固なスタッキング相互作用が形成されると、四重らせん構造の熱力学的安定性が増大することが分かった。さらに、ループ部位のスタッキング相互作用は、水素結合が可能な官能基を配向化させ、新たな水和サイトを形成することが示された。これらの結果から、四重らせん構造全体の脱水和が抑制され、分子クラウディングによる安定化が小さくなることが見出された。このような核酸構造の非塩基対部位における、熱力学的安定性―水和相関は、これまでに例がなく、細胞内におけるテロメアDNAの構造と熱力学的安定性を予測するためにも有用な知見となる。これらの成果の一部は、米国化学会発行の、J. Phys. Chem. B誌の表紙として掲載されるなど、科学的にインパクトのある成果となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞内環境因子として注目されている分子クラウディングについて、試験管内で化学模倣し、テロメアDNが形成する四重らせん構造をはじめとする種々のDNAの構造とその熱力学的安定性に対する効果を定量的に解析することができた。また、これまでに検討が進んでいなかった非塩基対部位(塩基対を形成していないループ領域など)が、DNAの構造形成においてきわめて重要な役割を果たしていることが見出された。この成果を用いることで、擬似細胞環境におけるDNAの構造安定性を予測できるシステムの開発も可能になる。このように、本課題で開発を進めている細胞模倣環境は、細胞内測定と試験管内測定を橋渡しできる実験系として活用できる可能性が示された。これらのことから、当初の計画通りに研究を遂行できており、本研究課題は、おおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
細胞模倣環境を合成高分子を用いて構築することができたことから、領域内での共同研究によって、さらに精密な細胞模倣系を構築することを試みる。具体的には、領域内で機能性材料として開発されている様々な物性をもつ合成高分子や、領域内で解明された天然の代謝産物を用いる予定である。 また、平成24年度の研究により、研究対象とするテロメアDNAの分子クラウディング環境における物性の定量解析にはめどがついたことから、上述の分子による分子クラウディングが及ぼす核酸の高次構造とその熱力学的安定性に対する効果を定量することを試みる。 さらに、細胞模倣環境で機能するリガンドの開発に必要な知見を蓄積する。具体的には、様々な相互作用様式をもってDNAの高次構造と結合するリガンドを用い、どのような相互作用様式が細胞模倣環境下で有効であるかについて定量的に解析する予定である。 最終的には、リガンドの細胞内での機能評価などによって、細胞内のin situ測定と試験管内での知見を橋渡しできる実験系としての有用性を示すことを試みる。
|