研究概要 |
南海トラフ前弧域に位置する熊野灘で2009年に実施されたIODP Exp. 319の際に行った長測線VSPの地震探査データを用いて,同海域の付加帯内の地震波P波減衰率(Qp)を推定した.Qpは海底直下の堆積物内での地震波減衰の影響が大きいために,海底地震観測のデータを用いた推定が困難であり,海域下での値が精度よく推定された研究例は少ない.本研究では,熊野灘の海底下約1,000mの孔内に設置された地震計アレイで観測された人工地震探査の信号の周波数解析を行い,同海域の海底下およそ8kmまでの深さ範囲におけるQpの推定に成功した.Qpの解析にはP波速度構造の情報が必要であるが,これは先行研究と本VSP探査のデータから導いたものを用いた.解析の結果,海底直下の未固結堆積層内のQpの値が36ないし57であると推定された.この値は,北大西洋の海底で推定されている値に近く,こうした値が広域で共通したものである可能性がある.堆積層下側の基盤層内では,Qpは487という高い値を示し,これは陸上の上部地殻層と同程度である.得られた値は,中米コスタリカ沈み込み帯の前弧海底下で推定されたQpより有意に大きい.この違いは,前弧域基盤層の地震波減衰構造が,付加型のテクトニクスが卓越する南海トラフ沈み込み帯と,浸食型テクトニクスに支配されるコスタリカ沈み込み帯との違いを反映している可能性がある.本研究で推定されたQp構造は,今後のこの地域での地下構造やプレート間大地震による強震動予測の研究に重要な情報をもたらす.本研究の成果は,"Qp structure of the accretionary wedge in Kumano Basin, Nankai Trough, Japan, revealed by long offset walk-away VSP"という論文にまとめ,Earth Planets Spaces誌に1月に投稿し,現在査読中である.
|