研究領域 | 超深度掘削が拓く海溝型巨大地震の新しい描像 |
研究課題/領域番号 |
24107704
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
成瀬 元 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40362438)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 地質学 / 海洋探査 / フィリピン海プレート / 付加体 / 南海トラフ |
研究実績の概要 |
この研究は,四国海盆の半遠洋性堆積物の起源およびフラックスの時間変化を明らかにすることで,日本海拡大以降の中新世から現世までの西南日本島弧テクトニクスに迫るものである.中新世から現世までの西南日本島弧テクトニクスを理解するうえで大きな障害となっているのは,この時期の連続的な地質学的記録が陸上には存在しないことである.中新世の西南日本前弧域の多くは陸化しており,直接的な地史イベント情報の多くは削剥され,地層としては残されていない.そのため,西南日本前弧テクトニクスについて情報を得るには,四国海盆の堆積物を調べることが有効な手段となる. 四国海盆に流入した半遠洋性堆積物組成の時間変化を調べたところ,おおよそ3Ma前後を境目として,スメクタイトからイライトへと主要な粘土鉱物組成が移り変わっていることが明らかになった.この変化は,四国海盆全域での堆積速度変化のタイミングとほぼ一致しており,後背地のテクトニクスに何らかの重大な変化が起こっていたことを示唆する.また,堆積速度が大幅に変化した11Ma前後では堆積物組成は変化していないことも明らかになった.すなわち,前年度までの調査の結果,この地域には11Maと3Maという二つの堆積速度変化イベントがあったことが明らかになっているが,これらのイベントの成因はそれぞれ異なるものであったことが推定される. さらに,本年度は津波に伴って深海へ流入する混濁流の堆積作用についても予備的な調査を行った.四国海盆においても,細粒堆積物の輸送機構として混濁流は重要であると考えられ,津波に伴う堆積作用は,堆積物フラックスの変動要因を考える上で欠かせない検討事項となるだろう.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点で,研究はおおむね順調に進展している.本年度は,主として四国海盆堆積物の粘土鉱物組成と堆積速度変化の関係性について検討を行った.結果として,多くの有意義な知見が得られており,研究の方向性について新たな指針が得られた.特に,3Ma前後での堆積速度変化の成因に関して情報が得られたことが重要である.また,深海での堆積作用に関連して,現世の調査から津波混濁流という新たな要因についても情報が得られたことは重要である.半遠洋性堆積物を運搬している作用については未知の部分が大きいが,このプロセスに混濁流が何らかの関与をしている可能性は否定できない.南海トラフのような活動的縁辺域では巨大津波が定期的に発生しているが,そのような地震・津波発生作用と遠洋域での堆積作用を結ぶのが,「津波混濁流」プロセスである.本研究は四国海盆での堆積作用とテクトニクスの関係を解明することが目標であり,そのためにも「津波混濁流」の堆積作用については今後の検討が必要だろう.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,四国海盆の堆積物の詳細な分析および既存研究のコンパイルに基づいた研究をより推進する.特に,四国海盆における半遠洋性堆積物の粒度や組成についてのさらなる検討を行う.さらに,今年度になって新たに理解が進んだ津波混濁流の深海堆積作用における重要性についても,野外および水槽実験による検討を行う.これらの研究成果を踏まえて,四国海盆に卓越する泥質堆積物の運搬作用を定量的に理解するため,混濁流および海流による拡散作用の数値モデルを作成し,長期間にわたる堆積速度変化と後背地テクトニクスの関係性について検討を行う.
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