研究領域 | 超低速ミュオン顕微鏡が拓く物質・生命・素粒子科学のフロンティア |
研究課題/領域番号 |
24108509
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
伊藤 孝 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, 研究員 (10455280)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | スピンエレクトロニクス / 量子ビーム科学 |
研究実績の概要 |
スピントロニクス薄膜材料の超低速ミュオン測定に必要となるヘリウムフロークライオスタットの設計・製作および温度調整機構の整備を行った。本装置を用いることにより、超高真空チェンバー内における試料の着脱および電流・電圧を印加した状態における超低速ミュオン測定が可能になる。次年度中の運用開始を目指してインストール作業を進めている。 また、スピンゼーベック効果の検証実験の一環として、磁気転移温度550ケルビンのフェリ磁性体であるY3Fe5O12(YIG)のバルクμSR測定を行った。J-PARCおよびPSIにおける実験の結果、低温においてミュオンスピンの自発回転が観測され、磁気秩序に伴う静的内部磁場の発生が確認された。この回転信号の線幅は、低温ではほぼ温度に依存せずに一定であるが、温度上昇に伴い200ケルビン付近から急激な増大を示す。ミュオンスピン縦緩和率に関しても同様の振る舞いが観測され、200ケルビン以上では熱活性型の温度依存性を持つことが明らかになった。活性化エネルギーは0.170(7)電子ボルトと見積もられ、これは酸化物絶縁体におけるミュオン拡散の典型的な活性化エネルギーの大きさと一致する。従って、YIGにおける縦緩和率の異常な振る舞いもミュオン拡散によるものであると考えられる。この予備実験により得られた基礎データを用いて、次年度以降、YIGに温度勾配を印加してスピン波スピン流を検出する実験を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、超低速ミュオン実験に向けた試料環境の準備は順調に進展している。YIGにおける熱誘起スピン波スピン流の検出実験の準備も整いつつある。一方で、この予備実験により、YIG試料の表面付近に数千ガウス程度の乱雑な磁場があることがわかった。この漏れ磁場はPt/YIG系における超低速ミュオン測定の妨げとなるため、実験計画の見直しが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
予備実験の結果から、超低速ミュオンによるPt/YIG系におけるスピン蓄積の観測は著しく困難であると考えられる。そこで、25年度は研究計画を変更し、YIG単結晶とPt薄膜のそれぞれにおいてスピン流が関係する物理の探索を行うことにする。具体的な研究計画は以下の通りである。 (1)YIG中に熱的に励起されたスピン波スピン流のバルクμSR法による検出:スピンゼーベック効果によりYIG単結晶にスピン波スピン流を励起し、スピンダイナミクスの変化をバルクμSR法により検出する。(前年度からの継続課題) (2)Pt薄膜試料の作成と超低速ミュオンによるスピンホール効果誘起スピン蓄積の観測:Pt薄膜に電流を印加するとスピンホール効果によりスピン流が生成される。この際、Pt薄膜の表面および基板との界面付近にはスピン蓄積による局所磁化が生じると考えられる。この局所磁化の深さ依存性を超低速ミュオンによりプローブすることで、スピン流生成の微視的検証を行う。
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