研究領域 | 超低速ミュオン顕微鏡が拓く物質・生命・素粒子科学のフロンティア |
研究課題/領域番号 |
24108510
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
長友 傑 独立行政法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, 技師 (60418621)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ミュオン科学 / 表面・界面物理学 / 量子ビーム科学 |
研究概要 |
熱エネルギー程度をもつ電子を束縛したミュオン(熱ミュオニウム、熱Mu)は、表面・界面の局所的な磁気プローブとして応用される超低速ミュオンビーム源として重要であり、その上、その超低速ビームの質が極めて良いため、ミュオンの異常磁気モーメント(g-2)や電気双極子モーメント(EDM)の標準模型を超える物理を探索する精密測定への応用に期待が寄せられている。これらg-2とEDMの精密測定は世界的に熾烈な競争が行われており、熱Muを大量に生成できる物質の探索が急務となっている。 本年度の研究では、世界でも最高強度のミュオンビームを供給できるJ-PARCセンターミュオン実験施設のD2ポートにおいて熱ミュオニウム発生装置を立ち上げた。熱ミュオニウム生成装置は、超高真空槽とその内部に固定された300Aの大電流によるジュール熱で高温に熱される金属箔および熱放射温度計から構成される。コリメートされたミュオンビームをその高温金属箔に打ち込んだ後、遅れて真空中に発生する熱Muからの崩壊陽電子をホドスコープで捕らえることで、熱Muを同定し、様々な金属からの熱Muの生成量を系統的に調査する。 熱Muの生成物質として、ミュオンと同じ性質の水素の溶解エンタルピーの大きなイリジウムを試験した。この結果、1200℃以上の高温のイリジウム純金属からの熱Mu生成信号を得ることが出来た。現時点で熱Muの生成量が最大とされる1700℃のタングステン純金属と同程度の生成量を示唆する結果であったが定量的な議論には至っていない。これは、パルス状に大強度のミュオンビームが供給されるため、大量のバックグランドノイズとの区別が現行の検出システムでは困難であることが原因であった。また、ミュオンの散乱をシミュレーションした結果、この大量のノイズは、高温金属で散乱し真空槽内壁に止まったミュオンの崩壊による陽電子であることも判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度において、熱ミュオニウム生成装置やホドスコープ検出器等から構成される熱ミュオニウム生成装置を構築し、J-PARCセンターにおいて、熱イリジウムおよび熱タングステンからの熱ミュオニウム由来の信号を得ることに成功した。しかし、大強度ミュオンビームによる散乱ミュオンのバックグランド放射線ノイズが研究提案時の予測よりも遥かに大きかったために、当初の検出器システムでは、研究対象である熱ミュオニウムの信号と当該バックグランドノイズとを十分に区別することができいことが判明した。その為、散乱ミュオンの影響を抑える為の熱ミュオニウム発生装置の真空箱の形状の改良および耐高検出性能をもつ検出器の開発と導入が避けられず、計画を送らせる必要が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
散乱ミュオンのバックグランドノイズを抑えるために、バックグランドノイズとなる散乱ミュオンの崩壊の様子をモンテカルロシミュレーションにより評価し、今年度の測定結果を踏まえて、超高真空槽の形状を最適な形状に変更し改善を行ったので、実際のミュオンビームを用いてバックグランドの抑制効果を確認する。このモンテカルロシミュレーションと、本年度得た実験データと照らし合わせると、バックグランドノイズを半分以下に抑えられることが期待される。また、検出器をより細分化しマルチピクセルフォトセンサ(MPPC)を用いた耐高計数率検出器を導入することで、パルス状に大量のデータが来た場合においても、バックグランドノイズとの分解能を高める。更に、検出器の数を増やし、二次元の空間分解能を持たせるように検出システムを変更する。この結果、バックグランドノイズを除去を可能にするととも熱ミュオニウムの真空中への拡散の様子をより精密に測定できるようになる為、より定量的に熱ミュオニウムの生成量を得ることができると期待している。また、イリジウムの再測定を行い定量的な生成量を得るとともに、ルテニウムやプラチナ等の他の金属を試験し、熱ミュオニウムの生成メカニズムを解明する。
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