カルボキシル基、カテコール構造などは、金属酸化物の表面と配位結合を形成しうる。昨年までの研究により、分子構造の両端にこれらの官能基を持つ有機分子の存在下で金属酸化物ナノ粒子を合成することで、有機分子がナノ粒子を互いに結合させてナノ粒子の集積構造を形成することが明らかとなった。一方、酸化物ナノ結晶の基板上集積を実現するためには、この集積構造が形成される前の単一粒子を取り出す必要がある。そこで、反応条件を1秒程度の極めて短い時間で制御可能な流通式反応器を用いて、この集積構造の形成過程の解明を試みた。 流通式反応装置を用い、0.01 Mの硝酸セリウム水溶液にグルタミン酸が最大で0.05 Mの濃度で溶解している原料溶液を急速加熱した。反応温度を250~300℃、反応時間は0.7から32 sの範囲で変え、反応圧力は25 MPaとした。 生成物の電子顕微鏡像より、グルタミン酸の濃度が高いと結晶子径が小さくなること、グルタミン酸濃度が0.05 Mの場合は結晶子径が20 nm程度、生成物径が50から80 nmであることがわかった。この結果は、1次粒子が集積して50~80 nmの構造が形成されることを示している。一方、275℃の合成温度において、反応時間が0.7 sでは球形の、8.0 sでは立方体の生成物が形成された。この結果は、合成温度の上昇に伴い集積構造が変化する事を示しており、集積構造の設計を可能にする重要な知見である。そこで、生成物の断面構造における結晶の方位解析を行った所、球状の粒子は結晶方位が異なるいくつかのドメインから構成されているのに対して、立方体の粒子では全て同じ結晶方位となっていることが明らかとなった。この成果は1次粒子の方位が揃うとともに、生成物の形状が変化することを示しており、合成条件の制御により多彩な構造形成が可能であることが明らかと成った。
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