研究領域 | 配位プログラミング ― 分子超構造体の科学と化学素子の創製 |
研究課題/領域番号 |
24108712
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中薗 和子 東京工業大学, 男女共同参画推進センター, 助教 (30467021)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 分子機械 / らせん高分子 / ポリロタキサン / ロタキサン / 超分子化学 |
研究実績の概要 |
本研究ではフォルダマー挙動を示す共役系ポリマーの側鎖にキラルなロタキサンを導入してフォルダマー形成を制御し、さらにロタキサンスイッチによるπ集積系を制御することを目的としている。前年度までに光学活性なビナフチル基をもつ輪成分を導入したロタキサンおよび分子不斉ロタキサンを側鎖に有するポリ(m-フェニレンジエチニレン)をそれぞれ合成し、その高次構造をCDおよびUVスペクトルから評価した。その結果、主鎖近傍に輪成分を移動させると、キラルな高次構造が形成され、輪成分を主鎖から遠ざけるとキラルな高次構造が消失する可逆的なシステムを見出した。特に分子不斉ロタキサンを用いたポリマーでは、ロタキサンスイッチに対する明確なキラルな高次構造のON/OFFが見られた。しかし溶媒条件により内孔をもつらせん構造と、伸びきり鎖がねじれたらせん構造と思われる2種類のキラルな高次構造が誘起されている可能性が示唆されていた。そこで24年度はまずこれらの高次構造について明らかにするために、モデル分子の合成とCDおよびUVスペクトルの評価を行った。m-フェニレンジエチニレンまた、アキラルなロタキサンと分子不斉ロタキサンとの共重合によりコポリマーを合成し、その高次構造をCDおよびUVスペクトルで評価したところ、Sergeants-Soldiers則に基づく分子不斉ロタキサンからの不斉増幅が観察された。 また、こうしたフォルダマー形成の知見をもとに新たな機能性π共役系ポリマーへの分子不斉ロタキサン導入に向けた検討についても着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で24年度に予定していた検討項目は1)共重合体合成に向けたコモノマーの探索、2)コポリマーのらせん誘起挙動評価、3)効果的な不斉場をもつ分子不斉ロタキサンの新設計である。これら3つの項目に関して検討を行い、論文執筆に向けたデータ収集と補足実験が必要であるが一定の成果が得られ、おおむね順調に研究は進展した。1)および2)では、コモノマーの構造によってコポリマーのらせんピッチや応答性が変化することを期待して検討を行ったが、確かにコモノマーの構造によるらせんキラリティー誘起には有為な違いが観察された。また分子不斉ロタキサンは新しい不斉の概念として大変興味深く、どこの構造を変えると不斉場に影響を与えるのかといったことは未知の領域であった。24年度はコンポーネント軸成分の構造を固定して輪成分上の置換基の構造や置換位置を変えることで、分子不斉場の効果を明らかにしつつある。特に輪成分上においては置換基のサイズでなく、位置が不斉場に大きな影響を与えるというロタキサンならではの分子不斉の特徴を見出し、分子不斉の本質に迫る重要な発見を得たと考える。最終年度には軸成分上の輪成分の位置を移動させる事でキラリティーの反転が起こるような構造の探索を計画しているが、今回の成果はキラル反転可能な構造の可能性を十分示唆しているといえる。 以上の成果について、コポリマーの系および分子不斉の構造検討結果についてそれぞれ、論文投稿に向けて執筆中であり、申請当初の計画に沿っておおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は分子不斉ロタキサンを用いたらせんキラリティー反転システムの構築と、化学刺激に変わる外部刺激に より応答するロタキサンを開発し、らせんキラリティー制御を目指す。 1.分子不斉ロタキサンの構造探索とらせんキラリティー反転システムの構築 : 前年度までに軸成分の末端がポリアセチレンの末端に結合した分子不斉ロタキサンによ りらせんキラリティーが誘起されることを確認している。今年度は輪成分を介してポリアセチレンにロタキサン スイッチを結合させたシステムを構築する。分子不斉の中心がコンポーネント間の交点周りであるならば、輪成 分の左右の軸成分長をスイッチングにより変化させることで、擬似的に「R-S」の不斉場の反転が起こせると 期待しており、これまでのポリアセチレンの「ラセミ化-片巻きらせん」の制御だけでなく、らせん反転システムを目指す。 2.外部刺激応答性ロタキサンの開発およびそれらを導入したポリアセチレンの合成と構造制御:これまで用いてきた酸・塩基応答性のロタキサンでは、繰返し応答により塩の蓄積や溶液系での 応答に限定されていたが、外部刺激として熱や光に応答するロタキサンスイッチを開発することでクリーンな系を構築すればフィルムや固体での応答が叶う。酸・塩基応答性では3級アミン部位のプロトン化と脱プロトン化がスイッチの駆動力となっていたが、このプロトン化をトリクロロ酢酸で行えば、トリクロロ酢酸アニオンの熱分解によりロタキサンのスイッチングが可能である。しかしトリクロロ酢酸塩のロタキサンは分解温度が低いので室温以上で熱分解するアニオンの探索が課題である。また、光分解や光に応答して異性化する官能基を導入した新たなロタキサンスイッチについても検討し、ポリアセチレン側鎖に導入してフィルムや固体での応答、さらにはアクチュエーターの試作を目指す。
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